5.クッキー・プディング
先生が呼ぶと、開けかかっているドアからひょっこりと、クッキーが顔出した。
白くてふわふわの髪の毛。頭のてっぺんからはえたうさぎの耳。先生とおそろいの丸眼鏡。クッキーは、ルビーのような赤い瞳で、きょとんとシャルロットを見つめている。
「シャルロット、どうしたの?」
「うんあのね、ちょっと報告したいことがあって。今から出てこれない?」
クッキーは首をかしげたが、すぐににっこり笑ってうなずいた。
「いいよ。じゃあ少し散歩しようか。待ってて、支度してくるから」
今まで書き物をしていたのだろうか、シャツの袖にはインクの染みがついていた。
しばらくして家から出てきたクッキーは、防寒対策のためか、アーガイル模様のウールのベストを来ていた。染みがついたシャツはそのままのところがクッキーらしい。ズボンのおしりには穴があいて、先生のとよく似たしっぽが顔を出している。
「ごめんね、プディング先生にも秘密にしておきたい話なの」
家から少し離れたところで、シャルロットはクッキーに打ち明けた。
プディング先生はうさぎ族で、クッキーはうさぎ族と人間のハーフだけど、親子ではない。先生が旅の途中で、捨て子だったクッキーを拾ったらしいのだ。
しかし、二人の様子を見ていると本当の親子みたいだ。シャルロットは、二人には血のつながり以上の絆があるんだろうなと思っている。
この町についたとき、クッキーはまだ小さかった。シャルロットは子どもながらに、このかわいい男の子は私が守ってあげなくちゃ、と思ったものだった。
学校に入っても、気弱なクッキーはよくいじめられた。そのたびにシャルロットがかばってあげていた。町長の娘で、町一番の宿屋のお嬢さまであるシャルロットには、いじめっこと言えども弱い。シャルロットはそのことをよく分かっていた。だから、自分の力をクッキーのために使うことに、なんの抵抗もなかった。
クッキーは、本当は強くて優しいんだから。暴力でしか自分の力を示せないあんたたちとは違うんだから。
クッキーがいじめられるたび、シャルロットのほうがいつまでもぷりぷり怒っていて、クッキーはなだめるほうだった。
でも、いつの間にかクッキーはいじめられなくなった。自分の意見をはっきり言えるようになって、頭の良さではかなわないいじめっこたちは、だんだんと力をなくしていった。
最近、クッキーがまぶしく見えて仕方がない。シャルロットに助けてもらうだけの、小さくてかわいい男の子だったのに、身長も追い越されてしまった。
どうして、いつのまに、こんなにクッキーは大人になってしまったの?
隣で歩くクッキーの背はぴんとのびて、ブーツに包まれた足の歩幅もシャルロットより大きい。シャルロットに合わせてゆっくり歩いてくれているのが分かる。
クッキーが薬師の修行を始める、とシャルロットに言ったときみたいに、シャルロットは不安だった。クッキーは私より遠いところを見ているんじゃないか。いつか私は置いていかれてしまうんじゃないか、って。