3.薬師と魔法使い
シャルロットの父は「あしたの町」の町長をしている。それもあってか、シャルロットはけっこう有名人で、道を歩いていると大人に声をかけられることもしばしばだ。
もっとも、このちいさな町では、赤ちゃんからお年寄りまでみんな顔見知りなのだけれど。
でも、立派な両親に恥じないように、とシャルロットは気を付けている。あいさつやふるまいもレディらしく。本当の性格はおてんばなのだけれど、大人の前で猫をかぶるのは意外と簡単だ。
有名人といえば、クッキーもそうかもしれない。クッキーの育ての親である先生は町で唯一の薬師だ。その先生に育てられたクッキーもまた、才能ある薬師として見習いをしている。
シャルロットは、頑張っているクッキーにおいつきたくて、魔法使いになることを決めた。
このセカイではだれもが瞳に魔法を宿して生まれてくる。なので簡単な魔法はだれでもひとつだけ使えるのだけれど、いくつもの魔法を自在に操る魔法使いになるのは、並々ならぬ修行が必要なのだ。
大ばばさまと呼ばれている町いちばんの変り者のおばあさんから、シャルロットは魔法の手ほどきを受けている。この町の魔法使いもこの人以外におらず、大ばばさまは昔は凄腕の魔法使いだったらしい。
今は、火をおこすと目がいたいだの、薬草を煮詰めると腰が痛いだの言ってばかりだけれど、その力は今でもなお健在だ。町のみんなは「気むずかしい」といって怖がっているけれど、シャルロットはこの変り者の大ばばさまが大好きだった。
いつか、クッキーが一人前の薬師になるのと同じくらいに、自分も一人前になれたら。そして町の人たちをふたりで助けていけたら――。
それが、シャルロットのひそかな夢だった。
クッキーは、シャルロットがそんなことを考えて魔法使いの修行を始めたとは夢にも思っていないと思う。
魔法使いになるよりも、自分の気持ちをクッキーに話すほうが大変だわ、とシャルロットは小走りになりながらため息をついた。