2.おいしいアップルパイの作りかた
シャルロットは「あしたの町」のはずれに来ていた。目指しているところは、町のはじっこにある大きな木。人が住めるくらいの大きな木で、実際その洞をくりぬいてロフト付きの家のように整え、シャルロットの幼なじみと薬師の先生が住んでいる。
「あしたの町」はちいさな町だ。住んでいる人がみんな小さいから家が小ぶりなのもあるかもしれない。紅茶色のレンガで出来たかわいらしい民家が立ち並び、この町の人はくいしんぼうだから、いたるところに畑や果物の木がある。
シャルロットがりんご畑に通りかかると、りんごをもいでいるスプーンおばさんのおだんご頭がぴょこっと出ているのが見えた。人一倍くいしんぼうだからずんぐりふとっているけれど、おばさんの作るアップルパイはこの町でいちばんおいしい、とシャルロットは思っていた。
もっとも、シャルロットはこの町の中しか知らないので、この町でいちばんということは、世界で一番おいしい、と同じになってしまうのだけど。
「こんにちは、スプーンおばさま!」
声をかけると、りんごの木に隠れていたスプーンおばさんが顔を出した。
「あら、まあ、シャルロットちゃん。もうすぐ日が暮れるよ。家に帰らなくていいのかい?」
「今からクッキーの家に行くところなの。用事がすんだらすぐ帰るわ」
「そうなのかい。じゃあこのリンゴ、持って行っておやり! 半分はシャルロットちゃんのお母さんに渡しておくれ」
「まあ、ありがとう。クッキーもお母さんも喜ぶわ。おばさまのりんごはおいしいもの」
おばさんの作るものは、アップルパイだけじゃなくてりんごもおいしいのだ。もしかして、おいしいりんごを使っているからアップルパイもおいしくなるのかしら? このりんごでアップルパイを作ってくれるようママに頼んでみよう、とシャルロットは思った。
アップルパイにそえる生クリームをたてることだけは、シャルロットはママよりうまい。やわらかすぎず、固すぎず、ちょうどいいところで止めるのが難しいのだ。
「ねえ、今度、おばさまのアップルパイの作りかた、あたしにも教えくださらない?」
シャルロットがおずおずと訊ねると、おばさんは「いいとも、いいとも」と大きくうなずいて、りんごの入ったバスケットを渡してくれた。
シャルロットがお礼を言って、りんごがいたまないように気を付けながら走りはじめると、おばさんが呼びとめた。
「シャルロットちゃん。今日のワンピース、かわいいね。リボンも、きれいな碧色の瞳によく似合っているよ!」
大きな声で言われたのでシャルロットはちょっと恥ずかしくなった。でも、褒めてくれたのは素直に嬉しかった。
でも、もしかしてクッキーのところに行くからおめかししてるって思われたかしら? とちょっと不安になる。その考えは半分はハズレだけど、半分は当たっている。
いつもは高いところでふたつに結んでいる巻き毛は、下ろして両サイドを翡翠色のリボンで結んである。
ワンピースもお気に入りの翡翠色のもの。中にブラウスを着るタイプで、前身頃にはリボンがいくつも立ち並んでいて、スカート部分は両脇がカーテンをとめたようなデザインになっている。
リボンタイつきの立ちえりブラウスとの組み合わせは、シャルロットが一番気に入っているコーディネートだった。
今日は大切な日だから、一番お気に入りの服を着ることで願掛けをしていたのだ。
そして、そのままクッキーに会いにいっても恥ずかしくないように――。
ふたつめの理由はだれにも知られたくない。もちろん、クッキー本人にも。