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ch.16 俺が違うということ

 俺が飛びかかったスキンヘッドはかなりのタフ野郎だった。

 一瞬とはいえ、仰け反りながら俺の体を支えたので、びっくりした。


 押し倒したところへ、タガさんが一発入れてくれることを期待したけど、そうはならなかった。


 立ち上がろうとするそいつを見て、とっさに思い切り首を絞めた。


 荒かった呼吸が途絶えて、スキンヘッドは静かに暴れ始めた。

 俺の両手を外そうとしてきたので、こっちも必死に力を入れ続けた。


 スキンヘッドの表情がわざとやっているのかというぐらい、汚く歪んだ。


 このままやれば死ぬのかな。

 殺しちゃったら、明日の約束はどうなるんだろう?


 そろそろ離してあげようかな。でもまだ足りないかな。


 そんな風に迷いながら首を絞めていると、スキンヘッドの横にタガさんの顔が現れて、言った。


「やめなって」


 その顔を綺麗だと思った。


 月明かりに顔の片側を照らされた顔は、性別に関係のない、なんというか『美しさ』みたいな感じがあった。


 手を離すと、スキンヘッドは横に転がって咳き込み、えずき、少しだけゲロを吐いた。


 タガさんと一緒に立ち上がると、後ろを確かめた。

 誰もいなかった。


「追っ払ったよ」

 タガさんは用事を片付けたような感じで言った。


 苦しんでいるスキンヘッドを見ながら迷った。

 どうしよう? もう帰っていいのかな?


 すると、タガさんはスキンヘッドの横にまたしゃがみ、今度は彼の背中に手を置いた。

 何をするのかと驚いた。


「大丈夫かよ?」

 そう聞かれたスキンヘッドも、驚いた顔でタガさんを見る。


「ごめんな」

 混乱しているスキンヘッドの背中をトンと優しく叩くと、タガさんは俺を灯台広場に連れ出した。

 俺がスキンヘッドがもう一回襲ってくるんじゃないかと、何回も振り返ったけど、タガさんに笑いながら背中を押されてしまった。


 7番街、灯台広場の夜は昼よりさらに賑やかだ。

 屋台も増えるし、居酒屋にも元気な客が入る。

 真ん中のコンクリ台にも、沢山の人が腰掛けている。

 ギャングの仕切る街とは思えない、明るい雰囲気だ。


 俺たちみたいなのがこんな夜に7番街に居て、大丈夫なのか。


 最初はそう心配したけど、平気そうなタガさんと、明るい街の雰囲気に、そんな心配はすぐ消えてしまった。


 タガさんは俺にフランクフルトを奢ってくれた。

 屋台のお爺さんは、焦がしちゃった一本もおまけで付けてくれたけど、タガさんはそれも俺に譲ってくれた。


 しかもドクター・ペッパー缶まで、奢られてしまった。

 フランクフルトなんて脂っこいものに、ドクター・ペッパーなんて甘いものまで手にしたら、もう我慢など出来るはずもない。


 タガさんに頭を下げた勢いで、そのままかぶりついた。

「いただきます!」

 今日は本当に夢みたいだ。


 そんな俺を面白がるように見ながら、タガさんは聞いた。


「お前、エド・リンジ?」

「いや、違います。エドは同級生ですけど」


 タガさんは自分のフランクフルトをモグモグしながら、呟いた。

「今年の中3は当たり年って聞いてたけど、ホントだったんだな」

「でも、タガさんには流石にかなわないだろうって、みんな言ってますよ」


 缶を開けて、一口。

 コーラ、フランクフルト2本、そしてドクター・ペッパー。


 満たされていく俺に、タガさんがストレートに言った。

「本当は君が最強だろ?」


 本心を見抜かれている。そう直感した。


「いや、よけるのが得意で、怖いものがないっていうだけです。うまく言えないんですけど」

「そうか……エドとは仲いいのか? それともオウガの一味か?」

「エドは俺の一番の友達です」

 唯一かもしれない。


「エドに伝えておいてくれないか? ヤンキーどもに狙われてる。俺が仲裁してやるから、来週6番街の広場で会おうぜって」


 ヤンキーというのは、エドが撃ったオウガの子分か? 『学校に行っていない組』の。


「君も来たほうがいい。エドが最強って言われてるのは、君の助けがあるからだろ」

「いや、あいつは一人で十分――」

「君は俺がどう動くか、敵の誰を潰せばいいか、よく見えてる。おまけにビビるっていう感覚を持ち合わせてすらいない」


 否定できない。


「先を読める分、決断も行動も早い。よほど頭がいいのか、単に運がいいだけなのか、わからないけど、君みたいな奴は初めてだよ」


 褒められているのか?


「名前は?」

「キュー・エザキです」

 また変な名前って思われるかな。


「日本語表記は?」

「江崎弓、弓って書いて――」

「キューって読むのか、かっこいいじゃん」


 何年ぶりだろう。

 かなり前に、エドも同じことを言ってくれたのを思い出した。


 初めて話すタガさん。

 エドとよく似ていると思った。

 ケンカ中も慌てない冷静さ。頭が良くて、人の話をよく聞いてくれる性格。


 ただ、違うのは『他人に興味を持って、明るく話しかけるタイプ』っていうところだろうか。

 ARみたいな変な奴がそれをやっても相手にされないだけだろうけど、何をやってもカッコいいこの人ならそんなこともないだろう。


 もしかしたら……。

 この人なら、俺の『感覚』をわかっててくれるかな?


 モグモグしたり、スプライトを飲んだりしているタガさんを見ながら、本当のことを言おうか考えた。


 すると迷っている俺にダメ押しのように、タガさんは付け加えた。


「俺が君とやり合ったとしても、君に動きを読まれるだけな気がするよ」


 一瞬だけ前を見た。

 行き交う『普通の人達』と自分が、どう違うのか。

 何度も考えたことを、また一瞬考えた。


「タガさん。その……さっきのことなんですけど……」


 フランクフルトを食べ終えたタガさんと、目を合わせた。


 周りで盛り上がっている酔っ払い達の声が、聞こえなくなった。


 タガさんの眉間を視界の真ん中に捉えると、俺は思い切って聞いてみた。


「自分が襲われそうな時、それを感じ取れることってありませんか?」

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