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ch.14 なんだこの音は

 ドリンクカウンターのお兄さんに注文を聞かれて、迷っていると「じゃあ、ビールでいいか!」と言われて、あわててコーラを頼んだ。

 大きめの紙コップにコーラを注いでもらうと、エドとARも同じようにコーラを頼んでいた。

 実は小学校の頃、この3人でビールに挑戦してひどい目に遭ったことがある。


「オウガとかあっちらへんの連中は、絶対見栄はって強い酒とか頼むんだろうな」

「エドは体でっかいから飲めるんじゃないの?」

「どうかなぁ」

 話しながら『ガーシュズ』店内を見渡す。


 普段はバランスよく配置されているであろうテーブルが、片側に密集させられている。

 ドラムセットやら、スピーカーやらが置かれた演奏スペースの前で、床に座り込んで演奏が始まるのを待っている一団がいる。


 一団は全員が男子、女子は壁に寄りかかったり、テーブルの前の椅子に座っている子ばっかりだ。


「おい、俺達も座ろうぜ」

 促すARに連れていかれて、知らない女子2人と同じテーブルの前に。


 テーブルの前に椅子は4つ、女子2人が座っているので、残りは2つ。


「邪魔するわ」

 エドがそう言いながら座り、その隣に俺が座ると席にあぶれたARはよそのテーブルへ行ってしまった。


 女子2人に嫌がられるかと思ったら、片方がこちらを見てほほ笑んだだけで、気にしていないようだった。

 2人とも俺達と同い年か、少し上ぐらいに見える。

 微笑んだ方は、まとめた金髪を斜め横に出していて、もう片方は赤みがかった黒髪を真後ろでまとめているけど、髪はボサボサで表情が暗い。


 小学校でも、ドミトリーと教室は男女で別。

 こうして女の子を間近で見ると、なんとなくムズムズした。

 でも、どうしたいのか自分でもよくわからない。


 金髪の子が、明るく元気な声でエドに話しかけた。

「東中じゃないよね?」

「ああ、そんな頭良くないよ」

「そっか……」

 エドがさらりと答えると、金髪の女の子はサッと立ち上がってどこかへ行ってしまった。


 勉強ができる東中の男子が良かったのかな。


 エドは残った暗い顔の子に言った。

「行かなくていいのか?」


 暗いというか、何も伝わってこない、伝える気も一切ないような表情でその子は答えた。

「あたしは男とか興味ないから……。金になるんなら別だけど」


 エドは一瞬俺を見てから、笑顔で話を続ける。

「音楽を楽しみに来たってわけか……」


「誰かごはんとか奢ってくれたりしないかなって」

 相変わらずの無表情で、演奏スペースの方を眺めながらそう答えた。


 大人のお店でやるようなことがしたいのかな、と思った。

 コワキ通りのお店では金持ちの男が、女の人たちにお酒や食べ物を奢っていると聞いたことがある。


「『嬢』になるのが夢」


 エドが聞くと、また無表情でボソッと。

「いや、ブスだから無理でしょ」


 エドは笑って、話を続ける。

「いや、ブスかどうか知らないけどさ。なんか嫌なことでもあったの?」


 女の子はようやく、エドと目を合わせた。

「話聞いてくれるの?」

「まあ、聞くだけなら……」

「じゃあ、もう一杯奢ってくれる?」


 女の子が空になったカップを見せる。

 もう飲んだのか?


「え? あ、まあ、いいけどさ……」

「じゃあ、これにビール入れてきて」

「えぇ……?」


 エドはカップを持って立ち上がりながら、一瞬俺に煙たーいっていう顔をして見せ、そのままドリンクカウンターに向かって行った。


 なんで、エドがこんないいようにされているんだろう?

 ちょっと不思議だった。


 その時、突然ドラムスティックのカチカチという音が聞こえて来た。

 そして疑問は消し飛んだ。


 何の楽器の音か知らないけれど、丸い音、とんがった音、重たい音が俺の頭を包み込んだ。


 急に心臓がドキドキしだして、勝手に体中に力が入る。


 なんだ? ここってこんなだったっけ?

 かっこいい!


 お互いに隙間を埋めるように、不思議な音が次から次へ!


 テーブルに肘をつこうとしたら、テーブルがない。いや、ずっと下にあった。

 あれ……? いつの間にか立ち上がってた?


 演奏している人たちを見つめる俺の視界にエドが一瞬入って来て、思わず押しのけてしまった。

「おい、あぶねえ!」


 それどころじゃないよ!

 エドの向こう、演奏してるメンバー達の目の前に俺は膝立ちになって、聞ける限りの音を聞いた。


 楽器の名前も、演奏しているのが誰かなんてことも、知ったことじゃない。


 この音はなんだ?

 すごい! 上がったり下がったりしてる!

 部屋が違う世界になってるよ!


 なにやら曲が変わって、外は晴れだったはずなのに、雨でも降っているような気持ちになる。

 なんでこんなに胸がぐーっとなるんだ?


 すべての音がアクロバット飛行のように、何かを描き出している。

 それだけは確かだ!


 なんかわかる!


 みんなもこれが聞きたいんだ!

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