お気の毒ですが冒険の書は~冒険者ギルド専属書記官の憂鬱~
「アングレーズマン書記官。ご相談したいことがあるのですが……」
「?」
冒険者ギルド職員クロト・アングレーズマンは事務作業中に後輩職員のアナから話しかけられ首を傾げた。
後輩の顔を見れば困りごとがあったのは明らかだ。直属の上司でもないクロトに相談。このタイミングで。一体何事だろうか?
チラとアナの背後に視線をやると、彼女が担当していた受付窓口の向こう側で厳めしい表情のドワーフが腕組みしてこちらを窺っている。
「……奥でお話を伺いましょうか」
「全滅したパーティーの死因の調査、ですか?」
「そうだ」
アナに渡された資料に目を通しながら、クロトはドワーフの男から話を聞く。
男の名はガルガド。このバイカルの冒険者ギルドに所属する冒険者で、その堅実な仕事ぶりから新人冒険者の教導役を任されることもあるベテランだ。道理の分かった人物でクロトやアナもよく仕事で世話になっている。
「……調査対象はファーン様をリーダーとした四人パーティー。冒険者歴3年目……ああ、2か月前にLV5に昇格されていたんですね。それが先日ゴブリン討伐に失敗して全滅、と」
そのパーティーに関してはクロトも覚えがあった。ならず者の多い冒険者としては珍しい真面目で堅実な若者たちだった。新人冒険者の八割以上が1年と経たず引退するこの業界で一人の仲間も失うことなく3年目を迎え、一人前の目安とされるLV5に昇格。ギルドとしても彼らには期待をかけていた。
「ファーンたちはゴブリンの討伐に失敗するような連中じゃあない。腕もそうだが仕事ぶりは堅実で、ランクアップに浮かれて油断するようなこともなかった。何か他に理由があったに違いないんじゃ」
「ガルガドさん……」
噛みしめるように訴えるガルガドを、アナが困ったように見つめる。
この時点でクロトはガルガドの目的と、アナがわざわざ自分に相談してきた理由を察した。
「つまりガルガド様は、我々がファーン様たちに斡旋した依頼はただのゴブリン討伐ではなく、ギルドが把握していない特殊な事情があったのではないかとお疑いなのですね?」
「……そうだ」
これだけ聞くとガルガドはギルドの依頼斡旋の不備を非難しているようにも取れるが、そうではないことをクロトもアナも理解していた。
ガルガドが問題としているのはファーンたちの名誉だ。ゴブリンの討伐はそれこそ1年目の駆け出しが請け負うような簡単な仕事。そんな仕事に失敗して全滅したとなれば、それまで彼らがどれほど堅実に実績を積んできたとしても、その冒険の書は『ゴブリンに殺された間抜けな冒険者』と締め括られてしまう。そのことがガルガトには我慢ならないのだ。
「ガルガド様であれば言うまでもなく理解いただいていることとは存じますが、冒険に絶対は存在しません。例えか弱いゴブリンが相手であろうとそれは同じこと。特に迷宮や巣穴のような狭く視界の悪い空間では腕の良い冒険者であっても不覚をとるというのはままある話です」
「そんなことは言われんでも分かっとる!!」
──ドンッ!!
ガルガドが激昂して思わずテーブルを叩いた。アナがそれにビクリと身体を硬直させるが、クロトは動揺することなく真っ直ぐにガルガドを見つめる。ガルガドは直ぐ気まずそうに視線を逸らした。
「……すまん。だが巣穴にゴブリン以外の魔物が棲みついていた可能性は否定できんじゃろう? せめてそれだけでも確認して欲しいんじゃ」
ガルガドも分かってはいるのだ。死因が何であれ今更結果が変わるわけでも彼らが蘇るわけでもない。ただ目をかけていた後輩たちの最後が、仕方ないと自分を納得させられるものであってほしいと願っているだけ。
気持ちは分からなくもない。調査することでガルガドの気が済むならそれでいいし、ギルドとしても今後の活動に役立つのであれば調査することも否やはなかった。
だが今回の場合は──
「あの、ガルガドさん。先ほどもご説明しましたが、今回の一件はその後既に騎士団がゴブリンの巣穴を殲滅して、他の魔物がいなかったことを確認しています。損傷が激しかったため遺体や装備などは回収できなかったそうですが、巣穴から発見されたギルドタグからも、ファーンさんたちがゴブリン討伐の依頼中にお亡くなりになったことは間違いないかと……」
「っ」
アナの言葉にガルガドが臍を噛んだ。
偶々近くを通りかかった騎士団の分隊により今回問題となっているゴブリンの巣穴は既に殲滅されている。騎士団からの報告で死因や他の魔物が存在しなかったことは確認できており、改めてギルドから調査員を送ったところで意味があるとは思えない、というのがアナの主張だ。
「…………」
いや、正確には全く意味がない訳ではない。
例えばガルガドが納得できるように、改めて調査を行った上でファーンたちの死因に手心を加えるとか。
勿論それはギルド職員としてやってはならないことだが、それをしたところで直接誰かに不利益があるわけではないし、ファーンたちの名誉は守られる。あるいはそうした解決の仕方もあるのではないかと迷う気持ちは、アナの中にもあった。
「…………」
だがやはりそれはしてはならないことだ。一度それをしてしまえば冒険者たちが積み上げてきた記録の価値に拭えない瑕をつけてしまう。クロトに相談して判断の責任を押し付けるようなことをしてしまったが、やはり自分がしっかり断るべきだった。アナがそう思い直したタイミングで、ジッと資料を読み込んでいたクロトが顔を上げた。
「……ガルガド様。調査結果が貴方の望むモノになるという保証はできませんが、それでもよろしいですね?」
「!」
「先輩、いいんですか……?」
まさか本当に調査に応じてもらえるとは思っていなかったのだろう。ガルガドとアナが驚いた様子でクロトを見つめる。
「ええ。私もこの件については少し気になることがありますので」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
冒険者とは基本的に社会の底辺に位置する者たちだ。華々しい偉業を成し遂げ英雄と呼ばれる者も存在するが、そんなのはごく一部の例外でしかない。
冒険者になるには資格も技術も経験も必要ない。最低限健康な肉体があるに越したことはないが、それだって必須ではなく、ギルドに届け出を出せば誰だって冒険者になることが出来る。
そもそも冒険者という存在の発祥は、ある地方の領主が力を持て余したゴロツキたちに仕事を与えたことが切っ掛けだと言われている。当初の目的は雇用の確保と治安の改善。ゴロツキたちに何かを期待していたわけではなく、彼らが犯罪に走ることを防ぐための施策だった。しかしこれが思いの外上手く行き、治安は大幅に改善。安価でお手軽な労働力と戦力の確保というおまけまでついてきた。
そしてこの成功例を知った国がこれを制度化。冒険者ギルドを設立し国家事業として運営に乗り出したのが現在の冒険者制度の成り立ちだ。
長い歴史の中で冒険者の中から英雄と呼ばれる者たちも現れ、少しずつその地位は向上、多くの若者たちが冒険者に夢を見た。
だが現実として冒険者のほとんどは安い対価で命懸けの仕事に駆り出される底辺労働者だ。彼らがその先に何を夢見ようと、ほとんどの者は何者にもなれぬまま命を落とす。
そんな彼らが生きた証はギルドがしたためる冒険の記録。一つ一つ冒険者たちが達成した依頼を記録した文字の羅列こそが、何者でもなかった彼らが積み上げた実績と信頼であり、誇りそのものだった。
故に冒険の記録が持つ意味はとても重く、国家公務員であるギルド書記官によって厳正に管理されている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ゴブリンの巣穴で見つかった冒険者の遺体について、ですか?」
クロトが最初に向かったのはファーンたちの遺体を発見し、ギルドタグを回収したという騎士たちのもとだった。
貴族の子弟を中心に構成された騎士団は気位が高い者が多く、アポイントも無しに訪問しても中々相手にしてくれるものではない。しかし騎士たちはクロトの『一等書記官』という肩書を聞くと詰め所に招き入れ丁重に応対してくれた。
最初にクロトの話を聞いてくれたのはラスティという壮年の騎士だ。
「ええ。死因について調査を行っておりまして、発見して下さった方に当時の状況をお伺いできればと」
「ふむ? まぁ、それぐらいは構いませんが──おい! 八班の連中を呼んで来い!」
壮年の騎士は近くにいた部下に発見者を呼びに行かせる。目当ての者たちは直ぐ近くにいたのか、一分とかからず三人の若い騎士を連れて戻ってきた。
「隊長? お呼びと聞きましたが……?」
「お、来たか──ん? グランの奴はどうした?」
「グランなら今日は非番です。寮にいると思うので呼んできましょうか?」
「いや、そこまではいい。先日お前らがゴブリンの巣穴で発見したという冒険者の遺体について、こちらの冒険者ギルドの書記官殿がお話を聞きたいそうだ」
その言葉に連れてこられた三人の訝し気な視線がクロトに向く。
「書記官殿。こいつらが遺体を発見した連中です」
「お忙しいところ申し訳ございません。私、冒険者ギルド一等書記官、クロト・アングレーズマンと申します」
『…………』
三人組はクロトの名乗りに顔を見合わせ、代表して金髪の男が口を開いた。
「カストルです。後ろの二人は同じ班のキールとバーンズ。今日は休みですが、もう一人グランという者が一緒に遺体を発見しました。話を聞きたいということですが、一体何のために……?」
カストルたちは警戒するような視線をクロトに向ける。遺体発見に関して話を聞きたいと言われれば、これは当然の反応だろう。
クロトは警戒を解くように朗らかな笑みを作ってその疑問に答えた。
「誤解させてしまったなら申し訳ありません。今回の件は特に事件性があって調査をしているわけではないのです。遺体で発見された冒険者は我々ギルドが自信を持って送り出した新進気鋭のパーティーでした。よもやゴブリン退治で全滅するとは想像していなかったので、念の為何かゴブリン以外の魔物や特殊な事情がなかったかを確認しているのですよ」
クロトの説明にカストルの背後にいた一人がボソリ。
「……新進気鋭って言っても、所詮は冒険者だろ」
「おいっ!」
失言に気づいてカストルが咎める。
氷りかけた場の空気を和ませるように、クロトはあくまでにこやかに続けた。
「確かに長年厳しい訓練を積んできた騎士の皆さまからすればそう見えるかもしれませんね。ですが、だからこそ真面目に仕事をこなしてくれる冒険者というのは貴重で、大事にしなくてはならないと思うのです。我々が出した依頼に何が不備があったのであれば改善していかねばなりません。特に今回亡くなったパーティーは騎士団の支援任務についたこともある人格的に信頼できる者たちでしたので」
隊長のラスティはクロトの言葉を受けてもっともだと言う風に頷く。
「なるほど。彼らは我々と同じ釜の飯を食った仲間であったかもしれないわけですな。であれば我々にとっても他人事ではありません。お前たちもひょっとしたら世話になっていたかもしれんのだ。しっかり調査に協力して差し上げろ」
『はっ』
ラスティの言葉にカストルたちも姿勢を正してクロトに向き直った。
「ありがとうございます。それでは既に報告いただいた内容と被るかもしれませんが、基本的なところから確認させてください、まず──」
クロトはゴブリンの群れの規模、他の魔物がいなかったか、遺体発見時の状況など一つ一つ丁寧に確認していく。カストルたちの答えは先にギルドに報告された内容と合致していて、ファーンたちが受けたのは新人でも十分対処可能なレベルの小規模なゴブリンの群れの討伐で間違いないように思えた。
部下たちの報告を横で聞いていたラスティが、顎を撫でながら口を挟む。
「ふむ……話を聞く限りごく一般的なゴブリンの巣穴だったようですな。まぁ、狭く見通しの悪い巣穴では腕利きでも不覚をとることがあります。今回もそうした事故だったのではありませんかな?」
「そうですね」
クロトはその言葉に軽く頷き、質問を続けた。
「遺体については損傷が激しく回収できなかったということですが、そのまま現地に?」
「放置すると疫病の惧れがありましたので、ゴブリンの死体と一緒に燃やして埋めました……その、あまりにひどい有様だったので」
カストルは人とゴブリンの死体を一緒くたにしたことを弁解するように付け加える。
「持ち物などはどうされました?」
「ギルドタグだけ回収して他は一緒に処分しました」
「遺体に何か不審な点はありませんでしたか。例えば、ゴブリンの腕力でつけたにしては深い傷跡であったりとか」
「いえ、特には」
カストルは即答した。燃やして埋めたとなると装備も原型を留めてはいまいし、そこから調査することは難しいだろう。
──さて、どうしたものかな……
クロトは少し考えこむように口元に手を当て、ふと気になった風に疑問を口にする。
「……これは調査とは直接関係はありませんし機密に属するものであれば答えていただかなくても結構ですが、皆さんは何故その現場に? 何か騎士団が対処しなくてはならないような魔物の発見情報でもあったとか?」
「ああいえ、そうではありませんよ」
答えたのはカストルたちではなく隊長のラスティだった。
「時折あるのですよ。暇な部隊に訓練として上官が突然指示を出すというのが。あの時は確か、副司令に目をつけられて狼煙を使った通信訓練を指示されたんだったな?」
「ほう? 副司令自らですか?」
「そういうのが好きな方なんですよ」
「なるほど」
クロトがチラとカストルたちに視線を向けると、彼らは曖昧に苦笑を浮かべた。
「ではその訓練の途中でゴブリンの巣穴を発見した?」
「ええ。指示されたポイントの直ぐ近くでしたので、ついでに処理しておこうかと」
「なるほど、なるほど」
そこまで話を聞いてクロトは隊長のラスティに向き直り、礼を言う。
「状況は概ね分かりました。今日は突然の訪問にお時間を割いていただきありがとうございます」
「いえいえ。こんな話で宜しかったので?」
「はい。後は現地に行って確認してみたいと思います」
クロトがそう言って席を立つと、カストルが少し驚いた様子で話しかけてきた。
「わざわざ現地に行かれるのですか? その、先ほども申し上げました通り、死体など調べるようなものは我々が一通り燃やしてしまったのですが……」
「ご心配なく。私、こう見えて多少その手の魔術に心得がありまして。僅かなりとも痕跡が残っていれば情報を得ることは可能です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数時間後、クロトは件の現場であるゴブリンの巣穴跡へとやってきていた。だが彼は巣の入口周辺をぐるりと見回すばかりで、中に足を踏み入れようとはしない。
「いい加減に出てきたらいかがですか?」
突然の呼びかけに一瞬間を空けて四人の人影が茂みの中から姿を現す──内三人の顔には見覚えがあった。つい先ほど騎士団詰め所で対面したカストルたちだ。
「……いつから気づいていた?」
「最初からです。こんな分かりやすい殺気をまき散らされては気づくなという方が無理ですよ」
クロトはクスクスと笑う。カストルたちがその反応に顔を顰め、何か言おうとするより早くクロトが続けた。
「ああ、今更詰まらないやり取りは無しにしましょう。時間の無駄ですからね。貴方方がウチの冒険者を殺害した犯人で、私の口を封じるためにここにいることは分かっています」
『!』
カストルたちの表情が驚愕に歪む。
彼らは何か言い繕おうとしたようだが、すぐにこの状況では何を言っても意味がないと気づき、諦めたように息を吐いた。
「……何故分かった?」
「分かったというより、最初にこの話を聞いた時から貴方たちを疑っていたんです」
「何?」
訝し気に眉を顰めるカストルたちにクロトは種明かしをする。
「偶然通りかかった騎士団がゴブリンの巣穴に入って殲滅した──これがそもそもおかしいんです。ゴブリンが弱いくせに厄介でリスクの高い魔物だってことは冒険者や軍人にとっては常識ですからね。だから騎士団はゴブリンの駆除をいつも冒険者に押し付けてきた」
繰り返しになるが、閉所でゴブリンのような数の多い魔物を相手する場合、不覚をとるリスクというのはどんな腕利きであってもゼロにはできない。故に騎士団は何の名誉にもならず、リスクしかないゴブリンの相手を嫌い、その対処を冒険者に押し付けてきた。勿論、騎士の中にも高潔な精神性を持ち、見かければ積極的にゴブリンの駆除などを行う者がいないわけではないが──
「実際に直接会ってみれば、やはり皆さんからは冒険者への敬意なんて欠片も感じられない。どう尻尾を掴んだものか悩みましたが、私のハッタリにアッサリ引っかかってくれて手間が省けましたよ」
「まさか──我らを誘き寄せたというのか!?」
クロトは改めて答えるまでもないと無言で肩を竦める。
騎士団詰め所を訪れたのは最初から発見者である彼らを怪しみ、その尻尾を掴むため。去り際に痕跡から情報を得る魔術が使えるかのように匂わせたのは、彼らを誘き寄せて暴発させるためだ。
「一応言っておきますが、今更証拠はないなんて惚けても無駄ですよ。書記官である私の告発は軽いものではない。必ず憲兵隊が動くことになります。サディストで有名な彼らの尋問に貴方方がどこまで耐えられるか見ものですね」
クスクスと笑うクロトに、カストルたちがカッと顔を紅潮させる。
「っ! 貴様こそ分かっているのか? のこのこやってきたのは貴様も同じだ。ここで貴様を殺してしまえば──」
「ははっ」
思わずクロトの口から失笑がこぼれた。
「いや、ここまでくると逆に凄いですね。こんなに察しが悪くてもクビにもされず続けてこられたとは、騎士団というのは相当ホワイトな職場らしい」
「貴様っ──もういい、やってしまえ!!」
カストルの合図で四人が一斉にクロトに襲い掛かってくる。だが──
──ヒュン、ヒュンビュッ!
「ぐあっ!?」
「ぎゃぁ!!」
「づっ!?」
閃光のごとく奔った斬撃で、カストルを除く三人が手足の腱を切り裂かれ武器を落としてその場に蹲る。
クロトは抜き放った細剣を掌でポンポンと弄びながら呆れた顔で告げた。
「誘き寄せておいて肝心の確保する手段を用意していない筈がないでしょう。我々一等書記官は記録のために実際に冒険に同行することもあります。それこそ魔王城に連れて行かれても自分の身を守れるぐらいの戦闘力は持ち合わせているつもりですよ」
「……っ!」
カストルは驚愕に顔を歪め、それでも諦め悪く踵を返して逃げようとした、が──
「ぐぅっ!」
背後からアッサリと両足の腱を切り裂かれ、うつ伏せになって地面に転がる。
「殺しはしません。貴方方が殺した冒険者の名誉のために、しっかりと証言していただきます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
後日談。
ファーンたち冒険者パーティーの死は、やはりゴブリン討伐の失敗ではなく、カストルたちの手によるものだった。
憲兵隊の調査によると、どうやらファーンたちは以前に騎士団の支援任務を受けた際、騎士団の一部が物資の横流しをしている現場を目撃してしまったらしい。カストルたちはその口封じのためにゴブリン討伐の失敗に見せかけてファーンたちを殺害した。
実際のところ、ファーンたちは目撃したそれが問題のある行為だとは理解できていなかったので、放置していればことが明るみになることはなかったのだが、今更それは言っても仕方のないことだろう。
最終的に今回の一件にはこの街の騎士団の副司令まで不正に関与していたことが明らかとなり、騎士団は体制の大幅な刷新を余儀なくされた。
「ま、所詮はトカゲの尻尾切りじゃろうて」
クロトから一連の報告を受け、調査を依頼したガルガドは大きく息を吐いた。
「物資の横流しなぞ、普通こんな小さな街でやっておればすぐに足がつく。本当の黒幕は安全圏で今ものうのうと暮らしておるだろうさ」
「…………」
クロトはガルガドの言葉を否定しない。
だがギルド書記官である彼の職権が及ぶのはここまでだ。これ以上は冒険者ギルドの領分を超えているし、仕事の片手間でどうこうできる話ではない。
ガルガドの依頼は達成した。けれどその結果得られたものは、将来を嘱望された若手冒険者たちの死因がゴブリン討伐の失敗から騎士団による不正の口封じに代わっただけ。幾ばくかの名誉は回復したかもしれないが、彼らが救われたわけでも報われたわけでもない。
「さて──」
ガルガドは席を立ち、クロトに背を向けて宣言する。
「儂はこれから、残りの人生をかけてファーンたちを殺した連中の黒幕を探ろうと思う」
「……危険ですよ。彼らはファーンさんたちの依頼内容を事前に把握していました。ギルド内部にもその手が伸びているかもしれません」
「分かっておる」
ガルガドは背を向けたまま天井を見上げ、ポツリポツリと自分に言い聞かせるように続けた。
「じゃが、このままではファーンたちはただの哀れな被害者で終わってしまう。奴らの死を無駄にせぬためにも、儂の残りの命は真相究明に捧げると決めた──これが儂の最後の冒険じゃ」
そこでガルガドは首だけ振り返り、ニヤリと笑って付け加える。
「じゃから書記官。先に言うておくが、儂が死んだら死因の調査を頼むぞ。必ず真相を明らかにして、儂の冒険の書に記してくれよ」
「……勝手なことを」
「クハハハ! じゃあの」
顔を顰めるクロトに一方的に言い捨てて、ガルガドは冒険者ギルドを後にする。命懸けの冒険に出かけるその背を見送り、クロトは諦めたように深々と嘆息した。
「……言われなくてもそうしますよ。それが私の仕事ですからね」
お試し的な位置づけの短編です。
主人公はかつて勇者パーティーに同行し、その武勲を謳った詩人。
しかしその裏で名も知れず死んでいった冒険者たちの存在を惜しみ、ギルド職員に転身した。




