表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SS追加!】悪役令嬢ですが、回復魔法しか使えないので平和に生きます!  作者: 九葉(くずは)
SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/37

氷の王子の甘い朝

 小鳥のさえずりと、カーテン越しに差し込む柔らかな陽光。

 王宮の寝室で目覚める朝は、いつだって平和の象徴だ。


 ……と言いたいところだけれど。


「……あの、ルーカス様。そろそろ起きませんと」

「あと五分」

「さっきも仰いましたわ」


 わたくし、セレスティーナは困り果てていた。

 ベッドから抜け出そうとするわたくしの腰には、鋼のような腕がしっかりと巻き付いている。

 背中には、夫であるルーカス様の体温と、均整の取れた胸板の感触。

 彼はわたくしのうなじに顔を埋めたまま、テコでも動かない構えだ。


「今日は隣国との通商会議でしょう? 遅刻したら、またリリアさんが胃薬を飲むことになりますわよ」

「構わない。リリアなら喜んで私の代理をするだろう」

「無茶を言わないでください」


 わたくしは苦笑して、彼の腕を解こうとした。

 けれど、ビクリともしない。

 それどころか、さらに強く抱きしめられる。

 左手の薬指にはまった指輪が、カチリと音を立てた。


 ドクン。

 指輪を通じて、彼の感情が流れ込んでくる。


(……ああ、なんて甘い)


 それは「痛み」ではなかった。

 この指輪は『痛みを半分こ』にする魔法がかかっているけれど、平穏な時はこうして『幸福』も共有してしまうのだ。

 

 ――行きたくない。

 ――ずっとこうして、セレスの匂いに包まれていたい。

 ――愛しい。柔らかい。誰にも見せたくない。


 言葉にするよりも雄弁な、溶けるような愛情の波。

 普段、外面は「冷徹な氷の王太子」として振る舞っている彼が、内心ではこんなにデレデレだなんて、国民は知るよしもないだろう。


「……ルーカス様。心の声が、ダダ漏れですわ」

「仕様だ。君にだけは隠し事をしたくないからな」


 彼は開き直って、わたくしの首筋にチュッと音を立てて口づけを落とした。

 ゾワリと甘い痺れが走る。

 まずい。このままではわたくしまでダメになってしまう。


「だ、ダメです! 起きますよ!」

「……セレス」

「なんですか」

「充電だ。あと三十秒だけ」


 彼は子供のように呟くと、わたくしを抱き枕のようにして深呼吸をした。

 指輪から伝わってくるのは、深い安らぎと、全幅の信頼。

 かつて孤独に凍えていた彼が、今はこうしてわたくしに体温を預けてくれている。

 そう思うと、無理に引き剥がすのも躊躇われた。


(……仕方ありませんわね)


 わたくしは観念して、彼の手の上に自分の手を重ねた。

 三十秒だけ。

 そう思って目を閉じた、その時だった。


『ママ! パパ! あーさーだーよー!』


 ドスン!

 空から黄金の塊が降ってきた。

 聖杯だ。

 この子は遠慮というものを知らない。

 わたくしたちの間に強引に割り込み、冷たい金属のボディを擦り付けてくる。


『おなかすいた! 魔力ちょうだい! あとパンケーキも!』

「ぐっ……!」


 ルーカス様が呻いて目を開けた。

 甘い雰囲気は一瞬で霧散する。

 彼の周囲の気温が、カクンと氷点下まで下がった。


「……この、空気が読めない金メッキめ。溶かしてインゴットにしてやろうか」

『キャー! パパがこわい! ママ、あそぼ!』


 聖杯はルーカス様の殺気などどこ吹く風で、わたくしの周りをブンブンと飛び回る。

 わたくしは笑いながら身を起こした。


「ほら、ルーカス様。この子が起こしてくれましたわ。行きましょう」

「……チッ。あとで覚えていろよ」


 ルーカス様は不機嫌そうに聖杯を睨みつけたが、わたくしの方を向くと、一瞬で蕩けるような甘い顔になった。


「行ってきますのキスは?」

「まだ着替えてもいませんわ」

「先払いだ」


 有無を言わさず、唇を塞がれる。

 指輪から、じんわりとした幸福感と、「やっぱり離れたくない」という名残惜しさが伝わってきた。


 わたくしの朝は、かつてのシナリオにはなかった、甘くて騒がしい幸せに満ちている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ