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第94話 木村の発見

調査を続けていた木村は、深海医師の研究室で恐るべき資料を発見した。


『語り部化の危険性について』


深海医師は、すでに語り部という概念に到達していたのだ。


そして、その危険性も理解していた。


「語り部は、確かに水籠の苦痛から解放される」


深海の手記にはこう記されていた。


「しかし、それは新たな苦痛の始まりでもある」


「無数の記憶を抱え込んだ意識は、やがて自我を失う」


「千年後、いや百年後には、もはや個人としての人格は残っていないだろう」


木村は青ざめた。


つまり、慎一は永遠に正気を保てるわけではない。


いずれ、記憶の海に溺れ、自分が誰だったかさえ忘れてしまう。


「羽生……お前は、それを承知で……」


木村は、親友の覚悟の深さに震えた。


同時に、その選択の残酷さにも。




その頃、日本各地で異変が起き始めていた。


八雲島の事件の影響は、島だけに留まらなかった。


水野教授のように、過去に島を訪れて生還した者たち。


彼らの子孫に、水の因子が覚醒し始めたのだ。


東京では、慎一の従妹・佐藤美月が異変に苦しんでいた。


「体が……水になっていく……」


大阪では、三十年前に島を訪れた研究者の息子が、同じ症状を訴えていた。


北海道でも、沖縄でも、同様の報告が相次いだ。


八雲島の呪いは、解けたのではなかった。


形を変えて、より広範囲に広がり始めたのだ。

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