第91話 新たな来訪者
事件から三日後、島に政府の調査団が到着した。
異常な地震と光の柱が観測され、緊急調査が決定されたのだ。
調査団のリーダーは、意外な人物だった。
「初めまして、篠田教授の助手の、木村と申します」
慎一の同級生、木村が団長として島に上陸した。
「羽生の行方を追って、ここまで来ました」
木村は、島の現状を見て言葉を失った。
しかし、すぐに民俗学者としての本能が働き始める。
「これは……途方もない発見だ」
木村は、あかねから詳しい話を聞いた。
そして、清明井へと案内される。
井戸を覗き込んだ木村は、そこに映る虹色の光に目を奪われた。
『木村か』
井戸から、慎一の声が響いた。
いや、慎一を含む語り部の声が。
「羽生! お前、生きていたのか!」
『生きているとも、死んでいるとも言える』
語り部が答えた。
『私は今、永遠の物語となった』
木村は、親友の選択に衝撃を受けた。
しかし、同時に理解もした。
これこそ、慎一が追い求めていた、究極の民俗学。
生きた伝承。
永遠の記録。
島民たちは、新しい現実に適応し始めていた。
水の呪縛から解放された者たち。
しかし、全員が人間に戻れたわけではなかった。
一部の者は、長年の水籠化で、もう人間の形を保てなくなっていた。
彼らは、新たな選択を迫られた。
このまま水として生きるか、それとも語り部に加わるか。
多くの者が、語り部を選んだ。
苦痛の永遠ではなく、意味のある永遠を。
しかし、中には別の選択をする者もいた。
「私は、このまま海に還ります」
老いた漁師が言った。
「もう十分生きた。妻も息子も、海の向こうで待っている」
それも、一つの選択だった。
強制ではなく、自らの意志での回帰。
『すべての選択を、尊重する』
語り部が言った。
『それが、人間の尊厳』




