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第90話 甚助の帰還
港に、渡海丸が戻ってきた。
甚助は、島の異変を感じ取って引き返してきたのだ。
「やはり、何かあったか」
甚助が、変わり果てた島の姿を見て呟いた。
しかし、その表情に恐怖はなかった。
むしろ、安堵の色があった。
「真珠、聞こえるか?」
甚助が、海に向かって語りかけた。
「もう、苦しまなくていいんだぞ」
海が、穏やかに波打った。
それは、真珠からの返事のようだった。
甚助は、清明井へと向かった。
そこで、あかねから事の顛末を聞く。
「そうか、慎一君は語り部になったのか」
甚助が、深く頷いた。
「それが、一番いい」
甚助は、懐から小さな巻物を取り出した。
「これは、先祖代々伝わる航海日誌だ」
日誌には、千年分の記録があった。
誰が島を訪れ、誰が水籠となり、誰が逃げたか。
すべてが、詳細に記されている。
「これも、語り部に渡してくれ」
甚助が、あかねに日誌を託した。
「千年分の、渡し守の記録だ」




