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第88話 あかねの決断

清明井の周りでは、生き残った者たちが新たな現実に直面していた。


あかねは、半分人間、半分水の姿のまま、井戸を見つめていた。


「慎一くん……」


彼女の目から、涙が零れる。


それは水の涙ではなく、人間の涙だった。


「私も、語り部になりたい」


あかねが、決意を口にした。


「美咲と一緒に、姉妹の物語を語り継ぎたい」


しかし、井戸の底から声が響いた。


『まだ早い』


それは、慎一でも夕日でも朝日でもない、三つが調和した新しい声だった。


『君には、まだ人間としてやるべきことがある』


「でも……」


『あかね、君は橋渡しになれる』


声が続けた。


『完全な人間と、完全な語り部の間の橋渡し』


『それは、とても重要な役割だ』


あかねは、その言葉の意味を理解した。


これから、水の因子を持つ者たちが、次々と島を訪れるだろう。


彼らに選択肢を示す者が必要だ。


苦痛の水籠か、語り部か、それとも別の道か。




瓦礫の中から、榊原大地が這い出してきた。


不完全な水籠となった彼の体は、もはや限界だった。


「あかね……」


大地が、最後の力を振り絞って近づいてくる。


「ごめん……俺は……君を……守れなかった……」


あかねは、大地を優しく抱きしめた。


半分水の体で、崩れかけた大地を支える。


「ありがとう、大地」


あかねが言った。


「あなたのおかげで、慎一くんは語り部になれた」


大地の目が、一瞬輝いた。


「本当……か……?」


「ええ。あなたが封印の網を投げてくれたから」


大地の顔に、安らぎが浮かんだ。


「なら……よかった……」


大地の体が、完全に水と化していく。


しかし、それは苦痛に満ちた水籠化ではなかった。


安らかな、解放だった。


大地の水は、清明井へと流れていく。


そして、井戸の底で、語り部たちに迎えられた。


『ようこそ、榊原大地』


『君の愛の物語も、永遠に語り継ごう』

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