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第79話 香織の犠牲
その頃、香織は第八の井戸から這い出していた。
朝日を解放した代償は大きかった。彼女の体は、もはや人間とは呼べない状態になっていた。
右半身は水、左半身は氷。
朝日の力と、水籠の呪いが、彼女の中で拮抗している。
「これで……父さんの仇が……」
香織は、よろよろと清明井に向かった。
戦いを見届けなければならない。
そして、もう一つの使命がある。
香織は、父の形見のペンダントを握りしめた。
水野教授が残した、最後の切り札。
四十年間、八雲島の水を封じ込めていた聖なる十字架。
「慎一さん……」
香織は、水と化した慎一を見つけた。
「これを……使って……」
香織は、ペンダントを慎一に向かって投げた。
しかし、その瞬間、香織の体が限界を迎えた。
水と氷の境界で、体が引き裂かれ始める。
「うわああああ!」
絶叫と共に、香織の体が爆散した。
水と氷の破片が、辺り一面に飛び散る。
しかし、その破片の一つ一つに、香織の意識の欠片が宿っていた。
『慎一さん……父の遺志を……継いで……』
無数の声が、慎一に語りかけてきた。




