第78話 双子の再会
第八の井戸から、凄まじい光が立ち昇った。
千年の封印が解かれ、氷の中から朝日が解放される。しかし、その姿は慎一が想像していたものとは違っていた。
時空そのものが歪み始めた。
過去と現在が、同じ空間に重なり合う。
慎一たちの目の前に、二つの光景が同時に存在していた。
——現在。狂気に歪んだ朝日が、氷の体で立っている。
——千年前。美しい巫女装束の朝日が、姉を止めようとしている。
二つの朝日が、同じ動きをする。しかし、その意味は正反対。
過去の朝日は、愛ゆえに。
現在の朝日は、憎悪ゆえに。
「お姉さま……」
二つの声が重なった時、空間に亀裂が走った。
パキッ、という音と共に、現実にひびが入る。
その隙間から、虚無が覗いている。
光も、闇も、水も、すべてを飲み込む、絶対的な無。
「これは……」
慎一は理解した。
千年の呪いは、現実の構造そのものを侵食していたのだ。
朝日は、美しい人間の姿を保っていなかった。
千年間の憎悪と孤独が、彼女をも怪物に変えていた。氷のような透明な体、内部で渦巻く黒い感情、そして何より恐ろしいのは、その笑顔だった。
狂気の笑顔。
「お姉さま……お久しぶりね」
朝日の声は、氷の鈴を鳴らすような冷たさだった。
渟の神――夕日は、妹の出現に激しく動揺した。
『朝日……なぜ……封印は完璧だったはず……』
「ええ、完璧でしたわ」
朝日が清明井に向かって歩いてきた。一歩ごとに、地面が凍りつき、草木が枯れていく。
「でも、お姉さまは計算違いをした」
「私を封印することで、あなたの力も半分になったことを」
慎一は理解した。
双子の巫女は、本来一つの存在だった。片方を封印すれば、もう片方の力も制限される。
「千年間、ずっと考えていたの」
朝日が続けた。
「どうやって、お姉さまを殺すか」
その言葉に、夕日は激昂した。
『殺す? 私を? 笑わせるな!』
渟の神が、巨大な水の津波を起こした。
しかし、朝日はそれを片手で凍らせた。
「もう、力の差はないのよ」
朝日の氷と、夕日の水が激突する。
千年ぶりの、姉妹の戦い。




