第77話 新たな契約
その時、朝日の声が響いてきた。
第八の井戸から、千年ぶりに。
『姉さん……』
夕日が、震えた。
『朝日……?』
『やっと……話せる……』
朝日の声は、優しかった。
千年間、氷に閉じ込められていたにも関わらず。
『姉さん……ごめんなさい……』
『私が……もっと早く……本当の気持ちを……』
姉妹の対話が、千年ぶりに実現した。
慎一は、その瞬間を見守った。
語り部として、この歴史的瞬間を記憶に刻みながら。
「私には、提案があります」
慎一が、姉妹に語りかけた。
「新しい契約を、結びませんか」
「水籠システムを、物語システムに変える契約を」
夕日と朝日が、同時に慎一を見た。
「どういうこと?」
「苦痛を与える代わりに、物語を与える」
慎一が説明した。
「水に還る者は、永遠の語り部となる」
「そして、島の真実を、美しい物語として世界に伝える」
それは、呪いを祝福に変える、新しい道だった。
あかねが、前に出た。
「私も……それがいいと思う」
美咲も頷いた。
「苦しむより、語り継ぐ方がいい」
夕日は、長い沈黙の後、微笑んだ。
千年ぶりの、心からの微笑み。
「それは……素敵ね」
朝日の声も、同意した。
『姉さんと私の物語が……永遠に語り継がれるなら……』
『それは……救いかもしれない……』
慎一は、新たな決意を固めた。
自分が最初の、新しいタイプの水籠となろう。
語り部としての水籠に。
それが、すべての始まりとなるだろう。




