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第74話 真実の物語
夕日は、震える声で語り始めた。
千年間、誰にも話せなかった真実を。
「私と朝日は、双子だけど、いつも比べられた」
「朝日は美しく、賢く、誰からも愛された」
「私は……いつも二番目だった」
慎一は、静かに聞いていた。
語り部として、すべてを記憶に刻みながら。
「でも、あの人だけは違った」
夕日の目に、一瞬、幸せな光が宿った。
「海人という名の漁師」
「彼は、私を見てくれた。朝日の姉としてではなく、夕日として」
しかし、その幸せは長く続かなかった。
「ある日、海人が朝日と話しているのを見た」
「二人は……笑っていた」
「私といる時より、ずっと楽しそうに」
夕日の顔が、再び歪み始めた。
「そして、聞いてしまった」
「海人が朝日に告白するのを」
「朝日が、それを受け入れるのを」
慎一は、千年前の悲劇を理解した。
単純な三角関係が、これほどの呪いを生んだのか。
「私は、狂った」
夕日が続けた。
「水の精霊の力を借りて、すべてを水に沈めようとした」
「朝日も、海人も、みんな」
「誰も幸せになれないなら、それでいいと思った」




