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第72話 渟の神の介入
その時、清明井から強烈な圧力が放たれた。
井戸の水が逆巻き、巨大な水柱となって立ち上がる。
その中から、渟の神が姿を現した。
千年前の巫女、夕日の姿をした水の化身。
しかし、その顔は美しくなかった。
嫉妬と憎悪と狂気で歪み、もはや人間の顔とは呼べない何か。
『愚かな子供たち』
神の声が、直接脳に響いてきた。
『私の計画を、邪魔するな』
渟の神が、巨大な水の腕を振り上げた。
『千年間、私は待った』
『すべての愛を、すべての幸福を、水に沈めるために』
『誰も、幸せになどなれない』
『私が得られなかった幸せを、誰にも与えない』
慎一は理解した。
これが、渟の神の本質。
愛に破れた女の、永遠の復讐。
『さあ、慎一』
神が、慎一に手を伸ばした。
『お前も、水に還れ』
『そして、永遠に苦しめ』
『それが、この島の掟』
慎一は、後ずさりした。
しかし、逃げ場はない。
周囲を、無数の水籠たちが取り囲んでいる。
歴代の犠牲者たち。
皆、苦痛に歪んだ顔で、新しい仲間を歓迎しようとしている。




