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第71話 内なる叫び
あかねが、美咲を押さえ込もうとした。
姉妹の意識が、水の中で激しく争う。
「美咲、お願い、黙って!」
「いや! もう黙ってられない!」
水の体が、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、分離し、また混ざる。
その混沌の中から、あかねの本当の声が漏れてきた。
「助けて……」
それは、水籠としてのあかねではなく、人間だった頃のあかねの声。
「誰か……私を……殺して……」
慎一は、あかねの中で、二つの意識が戦っていることを理解した。
水籠としての使命に従う意識と、人間としての心。
「こんなの……間違ってる……」
あかねの人間の心が、叫んでいた。
「慎一くんを……巻き込みたくない……」
「でも……止められない……」
「体が……心が……水に支配されて……」
慎一は、深い悲しみを感じた。
あかねもまた、犠牲者だったのだ。
自分の意志に反して、愛する者を裏切らざるを得ない、哀れな犠牲者。




