第69話 千年の真実
あかねは、慎一も知らない真実を語り始めた。
「千年前、双子の巫女がいた」
「姉の夕日は、愛する人と共に水に還ることを選んだ」
「でも、それは本当の理由じゃない」
慎一は、息を呑んで聞いた。
「本当は、妹の朝日を守るためだった」
あかねが千年前の真実を語り始めた時、彼女の体に変化が起きた。
感情が、物理的な形を取って現れ始めたのだ。
嫉妬を語る時、彼女の体から緑の水が滲み出る。
悲しみを語る時、青い雫が零れ落ちる。
怒りを語る時、赤い泡が湧き上がる。
そして、これらの感情の水が、井戸の周りに複雑な紋様を描いていく。まるで、千年前の出来事を、水の曼荼羅として再現しているかのように。
「見て、慎一くん」
あかねが、水の紋様を示した。
「これが、私たちの真実」
紋様の中に、小さな人影が動いているのが見える。
千年前の恋人たちが、永遠に同じ悲劇を繰り返している。
夕日が朝日を見つめ、朝日が恋人を見つめ、恋人が夕日を見つめる。
永遠の三角形。
誰も、本当に愛する相手を見ていない。
千年前の光景。
美しい双子の巫女。姉の夕日と妹の朝日。
二人は、同じ男性を愛していた。
島の若い漁師。名前は、もう歴史に残っていない。
しかし、男が選んだのは妹の朝日だった。
「夕日は、嫉妬に狂った」
あかねが続けた。
「そして、恐ろしい計画を立てた」
夕日は、自ら水籠になることで、愛する男も道連れにしようとした。
しかし、朝日がそれを阻止した。
「朝日は、姉の狂気を止めるため、自ら第八の井戸に身を投じた」
「永遠に氷の中で眠ることで、姉の計画を封じた」
慎一は混乱した。
「でも、夕日は渟の神になったんだろう?」
「そう」
あかねが頷いた。
「朝日の犠牲に狂った夕日は、完全に正気を失った」
「そして、島全体を道連れにしようとした」
「それが、水籠システムの始まり」
慎一は、恐るべき真実を理解した。
渟の神は、愛と嫉妬に狂った女の、千年続く復讐だったのだ。




