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第66話 水の行進
その後を、無数の水の民たちが追い始めた。
「新しい仲間が……」
「井戸に向かっている……」
「でも、何か違う……」
水の民たちも、慎一の異質さを感じ取っていた。
恐怖に震えているのでもない。
諦めているのでもない。
狂気に侵されているのでもない。
明確な意志と使命を持って、水になろうとしている。
それは、千年の歴史で初めてのことだった。
「語り部……」
誰かが呟いた。
「真実を語る者……」
「私たちの物語を……」
水の民たちの間に、かすかな希望が広がった。
もしかしたら、この若者は……
自分たちの永遠の苦痛に、意味を与えてくれるかもしれない。
ただ苦しむだけではなく、その苦しみが物語として語り継がれるなら……
それは、一種の救いになるかもしれない。




