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第59話 語り継ぐための決意
慎一の意識は、分散した水と共に島中を巡った。
排水溝を通り、地下水脈に入り込み、井戸から井戸へと移動する。その過程で、慎一は島の真の構造を理解し始めた。
七つの井戸は、ただの井戸ではなかった。
それぞれが巨大な地下ネットワークで繋がり、島全体に水を循環させている。そして、その中心に清明井があり、さらにその下に……
第八の井戸。
封印された井戸は、実は他の七つの井戸すべてと繋がっていた。
『これだ』
慎一の意識が震えた。
『この水のネットワークそのものが、巨大な記憶装置』
『千年間の記憶が、水の中に保存されている』
それは、恐ろしくも、同時に希望でもあった。
もし、この記憶を正しく読み取り、語り継ぐことができれば……
慎一は決意した。
自分の意識を、さらに細かく分割する。
それは、極めて危険な行為だった。意識を分割しすぎれば、二度と一つに戻れなくなる可能性がある。永遠に、バラバラのまま島中を彷徨うことになるかもしれない。
しかし、それこそが語り部の宿命かもしれない。
『物語は、一人の人間に収まるものではない』
『千年の物語を語り継ぐには、私も千の欠片となろう』




