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第57話 崩壊する境界

慎一の意識は、水の集合体の中で第三の選択を模索していた。


神になることも、すべてを破壊することも拒否し、別の道を探る。それは、集合意識にとって想定外の反応だった。


『何を企んでいる?』


千年分の声が、苛立ちと共に慎一を圧迫した。


しかし、慎一は気づいていた。集合意識の中に、小さな綻びがあることに。それは、香織が第八の井戸に侵入した瞬間から生じた、システムの不具合。


朝日の覚醒が、千年間完璧に機能していた水籠システムに、亀裂を生じさせたのだ。


その亀裂を、慎一は利用しようとしていた。


そして、彼の中で、民俗学の語り部としての信念が燃え上がった。


『私は、語り部だ』


慎一の意識が、集合体の中で強く主張した。


『消えゆく物語を語り継ぐ者。真実を後世に伝える者』


集合意識が困惑した。今まで、水籠になった者たちは、恐怖か、諦めか、狂気に支配されていた。しかし、この若者は違う。明確な使命感を持っている。


『語り部……だと?』


『そうだ。私の使命は、この島の真実を語り継ぐこと』


慎一の意識は、さらに強く輝いた。


『千年間、歪められ、忘れられてきた真実を、正しく伝えること』

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