第54話 最深部への招待
集合意識の中心部から、また、あの少女の声が響いてきた。
『こっちへ来て』
最初の巫女が、慎一を呼んでいる。
慎一の意識は、無数の層を通り抜けて、最深部へと導かれた。
そこは、もはや人間の理解を超えた領域だった。
時間と空間が歪み、過去と未来が混在し、生と死の境界も曖昧。
そして、中心には、一人の少女がいた。
千年前の巫女。
しかし、その姿は、もはや人間とは呼べなかった。
体は水晶のように透明で、内部では無数の顔が浮かんでは消えている。歴代の水籠たちの顔。彼女は、すべての水籠の苦痛を、一身に受け止め続けていた。
『やっと、会えた』
巫女が、慎一に向かって手を伸ばした。
『あなたになら、できるかもしれない』
『何が?』
『私を、殺すこと』
慎一は驚いた。
神を殺す。それが可能なのか。
『私は、もう限界なの』
巫女の透明な顔に、涙のようなものが流れた。
『千年間、すべての苦痛を感じ続けている。新しい水籠が増えるたびに、苦痛も増える。もう、耐えられない』
巫女は、慎一の意識に直接触れてきた。
瞬間、慎一は巫女の感じている苦痛を、すべて体験した。
それは、人間の精神が耐えられる限界を、遥かに超えていた。
千人分の死の苦しみ。
万人分の絶望。
永遠に続く、終わりのない拷問。
慎一の意識は、砕け散りそうになった。
しかし、同時に理解した。
『これも、語り継ぐべき物語』
慎一の意識が、苦痛の中でも輝きを失わなかった。
『最初の巫女の、千年の物語』




