第41話 手記の発見
混濁する意識の中で、慎一は壁際の棚に目を向けた。
そこには、古い手記が並んでいる。
『昭和五十八年 水野晃司』
水野教授の手記があった。
慎一は、震える手で水野教授の手記を取った。
最後のページには、走り書きでこう記されていた。
『第八の井戸を見つけた。朝日は、まだ生きている。双子の片割れだけが、夕日を止められる。しかし、代償は——』
そこで文章は途切れていた。
双子の片割れ。
その言葉が、慎一の中で何かを呼び覚ました。
まだ、方法はあるのかもしれない。
ページをめくると、さらに奇妙な記述があった。
『これを読んでいる君へ。君が誰かは知っている。羽生慎一。二十三歳。民俗学専攻。なぜ知っているか?それは君自身が、いずれ分かる。時間は、水の中では意味を持たない。過去も未来も、同じ海に溶けている。』
慎一は手記を取り落とした。
これは四十年前に書かれたはずだ。なぜ、自分の名前が——
しかし、深海が慎一の肩を掴んだ。
「もう、お時間です」
老医師の手から、冷たい何かが慎一の体に注入される。
意識が遠のいていく。
最後に見たのは、深海の狂気じみた笑顔だった。
「明日の祭りで、あなたは最高の水籠になる」




