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第40話 慎一の脳裏に浮かぶ記憶
深海の話を聞いているうちに、慎一の頭の中で何かが弾けた。
水の記憶。
体内に入り込んだ水が持つ、千年分の記憶が、脳裏に流れ込んでくる。
最初の水籠となった巫女の絶望。
愛する人に裏切られた悲しみ。
そして、復讐への執念。
それらの感情が、慎一の意識を侵食していく。
「あ、ああ……」
慎一は頭を抱えた。
自分の記憶と、他者の記憶が混じり合う。もはや、どれが自分の感情なのか分からない。
「その調子です」
深海が満足そうに見守っている。
「記憶の同化が始まれば、もうすぐ完全な水籠になれる」
慎一は必死に抵抗した。
まだ、自分は慎一だ。民俗学を学ぶ学生で、記録者で……
しかし、その抵抗も、波のように押し寄せる記憶の前では無力だった。




