第39話 千年の呪いの起源
深海が読み上げる古文書には、島の真の歴史が刻まれていた。
「千年前、双子の巫女がいた」
ページをめくりながら、深海が語る。
「姉の夕日と、妹の朝日。二人は同じ男を愛した」
慎一は、その名前に聞き覚えがあった。朝日……どこかで見た気がする。
「夕日は、男と妹の仲を知って狂った。そして、自ら水に身を投じた。しかし、それは単なる入水ではなかった」
深海が古文書を読み上げる声が、次第に遠くなっていく。
代わりに、別の何かが慎一の意識に直接流れ込んできた。
それは、言葉ではない。
映像でもない。
もっと原始的な、感情の塊。
千年前の巫女の絶望が、生のまま、慎一の神経を駆け巡る。愛する人の裏切り、妹への嫉妬、そして水に身を投じる瞬間の——
「ああっ!」
慎一は頭を抱えた。
これは他人の記憶のはずなのに、まるで自分が体験したかのように鮮明だった。冷たい水が喉を満たし、肺が水圧に押しつぶされ、意識が海の闇に溶けていく感覚まで。
「それが、水の記憶です」
深海が説明した。
「水は、すべてを記憶する。そして、水の因子を持つ者は、その記憶にアクセスできる」
深海の目が、狂気じみた光を帯びた。
「夕日は、古い水の精霊と契約を結んだ。自分の命と引き換えに、島全体を巻き込む呪いを作り出した」
「それが、水籠システム……」
「そうです。しかし、話には続きがある」
深海は、ページの端に小さく書かれた文字を指し示した。
「朝日は、姉の呪いを止めるため、自らを第八の井戸に封じた」
第八の井戸。
七つしかないはずの井戸に、もう一つ。
「第八の井戸は、禁忌とされ、その存在さえ語ることを禁じられた」
深海が本を閉じた。
「しかし、私は知っている。その井戸こそが、すべての鍵だと」




