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第35話 六日目の朝の恐怖

慎一が目を覚ました時、体の異変は隠しようのないレベルに達していた。


手首から始まった青い痣は、今や両腕全体を覆い、胸元にまで広がっている。皮膚の下では、青い筋が脈打ち、まるで第二の循環系が形成されているかのようだった。


鏡を見て、慎一は息を呑んだ。


瞳の色が変わり始めている。茶色だったはずの虹彩に、青い斑点が広がっていく。そして、白目の部分にも、細い青い血管が浮き出ていた。


「もう、時間がない」


慎一は震える手で顔を洗った。


水道から出る水が、肌に触れると痛みを感じる。いや、痛みというより、水が体内に浸透しようとする感覚。皮膚が、水を吸収したがっているのだ。


階下に降りる前に、慎一は持参した塩を手に取った。


甚助がくれた、最後の希望。


少量を手のひらに乗せると、激痛が走った。塩が、変化した皮膚を焼くような痛み。しかし、同時に、体内の「何か」が後退していくのを感じた。


効果はある。しかし、一時的なものに過ぎない。


食堂には、もう誰もいなかった。


老人、中年男性、月島。昨日まで一緒に朝食を取っていた人々の姿がない。


「皆さんは?」


キヨに尋ねると、彼女は穏やかに微笑んだ。


「朝早くから、祭りの準備にお出かけになりました」


嘘だ、と慎一は直感した。


彼らは、もう普通の状態ではない。どこか別の場所で、最終的な変化を遂げているのかもしれない。


「羽生さんも、準備をなさった方がよろしいかと」


キヨの声には、有無を言わせぬ響きがあった。

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