第32話 五日目の恐怖
その夜、慎一はなかなか眠れなかった。
今日見た奇妙な光景が、頭から離れない。
シンクロする島民、井戸の幻覚、あかねの変化。
すべてが、何か大きな異変の前兆のような気がした。
ようやく眠りについたのは、深夜を過ぎてからだった。
そして、水音で目が覚めた。
ぴちゃ、ぴちゃ、という規則正しい音。
時計を見ると、午前三時。
音は、廊下から聞こえてくる。
慎一は、そっとドアを開けて廊下を覗いた。
そこには、信じられない光景があった。
廊下に、濡れた足跡が点々と続いている。
それも、人間の足跡ではない。
水かきのついた、奇妙な形の足跡。
そして、その足跡は、各部屋の前で止まり、また次の部屋へと続いている。
まるで、誰かが見回りをしているような。
慎一は、息を殺して見守った。
足跡は、まだ新しい。
水が、廊下の木目に染み込む前の、できたばかりの跡。
つまり、今も誰かが……いや、何かがこの建物の中にいる。
慎一は、ドアを閉めて鍵をかけた。
そして、布団をかぶって震えた。
外から、また水音が聞こえる。
今度は、自分の部屋の前で止まった。
ドアの向こうで、何かが立ち止まっている。
息を殺して、じっと待つ。
どのくらい時間が経っただろう。
ようやく、水音が遠ざかっていった。
慎一は、恐る恐る窓から外を見た。
月明かりの下、誰かが歩いている。
いや、歩いているというより、滑っている。
水たまりを残しながら、ゆらゆらと集落の方へ向かっていく人影。
その人影は、どこか見覚えがあった。
老人? いや、中年男性?
判別できないが、宿泊客の誰かのような気がした。




