第31話 あかねの微妙な変化
宿に戻る途中、あかねに会った。
「慎一くん、顔色が悪いよ」
あかねが心配そうに近づいてきた。
「ちょっと、疲れが出たみたいで」
「そう……島の空気に、体が慣れるまで時間がかかることもあるから」
あかねは優しく微笑んだ。
しかし、慎一は気づいた。
あかねの笑顔が、どこか作り物めいている。
昨日までの自然な笑顔とは、微妙に違う。
そして、よく見ると……
あかねの髪が、部分的に濡れている。
晴れているのに、なぜ?
「あかね、髪が……」
「え?」
あかねは、さりげなく髪を手で直した。
「ああ、さっき井戸で顔を洗ったから」
理由は納得できる。
でも、濡れ方が不自然だ。
まるで、内側から滲み出たような濡れ方。
「慎一くん、今日は早めに休んだ方がいいよ」
あかねが言った。
「明日は、祭りの前日だから」
「祭りの前日?」
「うん。前夜祭みたいなものがあるの。島民だけの、静かな祈りの時間」
あかねの目が、一瞬、違う色に見えた。
いつもの茶色ではなく、深い青。
海の底のような、暗い青。
しかし、瞬きをすると、また元の色に戻っていた。
「じゃあ、また明日」
あかねは、ゆっくりと歩いて行った。
その後ろ姿を見て、慎一は違和感を覚えた。
歩き方が、昨日とは違う。
もっと滑らかで、もっと……流れるような歩き方。
まるで、水の中を歩いているような。




