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第28話 四日目の朝の異変

慎一が目を覚ますと、何かがおかしかった。


枕が湿っている。


最初は寝汗かと思った。しかし、触ってみると、それは普通の汗とは違う。べたつかず、さらりとしていて、かすかに塩の味がする。


「海の近くだから、潮風のせいかな」


慎一は自分に言い聞かせた。


そして、奇妙なことに気づいた。


目覚まし時計の秒針の音が、いつもより遅く聞こえる。チッ、チッ、という音の間隔が、わずかに長い。まるで、時間の流れ方が変わってしまったかのように。


窓を見ると、確かに開いている。昨夜、寝る前に閉めたはずだが……


きっと、風で開いたのだろう。


慎一は枕カバーを取り替え、顔を洗いに洗面所へ向かった。


鏡を見て、少し驚いた。


目の下にうっすらとクマができている。ぐっすり眠ったはずなのに、なぜだろう。


そして、首筋に小さな青い筋が浮かんでいるのに気づいた。


血管だろうか。でも、普通の血管より青い。


「疲れが出てきたのかな」


三日間、慣れない環境で過ごしたから、体が疲れているのかもしれない。


そして、洗面所で顔を洗おうとした時、恐ろしいことに気づいた。


蛇口から出る水が、自分の手に触れた瞬間、手の中に吸い込まれていくのだ。皮膚が、スポンジのように水を吸収している。


慌てて手を引いたが、すでに手のひらは半透明になりかけていた。皮膚の下で、青い何かが脈打っているのが見える。


「これは……」


慎一は、必死に手を振った。すると、指先から水滴が飛び散った。その水滴は、床に落ちても球体のまま転がり、やがて蒸発することなく、生き物のように排水口へと這っていった。


自分の体から出た水が、意志を持っている。


この事実に、慎一は深い恐怖を覚えた。


階下に降りると、いつものようにキヨが朝食の準備をしていた。


「おはようございます」


「あら、羽生さん。今朝は少し顔色が……」


キヨが心配そうに慎一を見た。


「大丈夫ですか?」


「ええ、ちょっと疲れが出たみたいで」


「そうですか。今日はゆっくりなさってくださいね」


食堂には、他の宿泊客も集まってきた。


しかし、今朝は皆どこか様子がおかしい。


老人は、ぼんやりと窓の外を見つめている。いつもの朗らかさがない。


中年男性は、写真を見つめたまま、食事に手をつけようとしない。


月島は、首筋の絆創膏を何度も触っている。不安そうな表情だ。


「皆さん、お疲れのようですね」


キヨが気を遣って声をかけた。


「今日は祭りの準備もお休みですから、のんびり過ごされてはいかがですか」


朝食は、いつもと同じように美味しそうだった。


しかし、なぜか食欲がわかない。


慎一は、味噌汁を一口飲んで、違和感を覚えた。


いつもの味と、少し違う。


塩辛いような、それでいて妙に甘いような。


「あの、今日の味噌汁……」


慎一が言いかけると、キヨが微笑んだ。


「ああ、今日は特別な味噌を使ったんです。祭りの前に食べる、厄除けの味噌汁」


「そうなんですか」


納得したものの、やはり味は奇妙だった。


舌の上に、ざらざらとした感触が残る。


まるで、細かい砂が混じっているような。

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