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第25話 秘密の浜辺

島の反対側への道は、山道を越えていく必要があった。


しかし、道は整備されていて歩きやすい。


「この道、子供の頃はよく探検したなあ」


あかねが懐かしそうに言った。


「友達と秘密基地を作ったり、昆虫採集をしたり」


道の両側には、照葉樹林が広がっている。


時折、鳥の鳴き声が聞こえ、蝶が舞っている。


三十分ほど歩くと、視界が開けた。


「着いた!」


目の前に、美しい砂浜が広がっていた。


集落側の浜辺より広く、人の姿もない。手つかずの自然が残る、秘密の楽園のような場所。


「ここ、島の人もあまり来ないんだ」


あかねが靴を脱いで、素足で砂浜を歩き始めた。


「だから、いつもきれいなまま」


慎一も靴を脱いだ。


砂は細かくて、足の指の間を心地よくすり抜けていく。


波打ち際まで行くと、透明な水が足を洗う。


「冷たい!」


でも、気持ちいい冷たさだった。


二人は、しばらく波と戯れた。


子供の頃に戻ったような、無邪気な時間。


「ねえ、慎一くん」


波の音に混じって、あかねが言った。


「この島、気に入った?」


「ああ、すごくいいところだね」


慎一は正直に答えた。


「人も温かいし、自然も美しい。食べ物も美味しい」


「良かった」


あかねが安心したように微笑んだ。


「実は、心配してたの。都会の人には、退屈かもしれないって」


「そんなことないよ」


慎一は、水平線を見つめた。


「むしろ、こういう場所で暮らせたら幸せだろうなって思う」


あかねの顔が、ぱっと明るくなった。


「本当?」


「ああ。でも……」


慎一は言葉を濁した。


自分には、都会での研究がある。大学もあるし、将来の計画も。


でも、この瞬間だけは、そんなことは忘れていたかった。


夕方近くなって、二人は集落へ戻った。


帰り道、あかねが面白い場所を教えてくれた。


「ほら、あの岩」


大きな岩に、人の顔のような模様がある。


「私たち、これを『見守り岩』って呼んでたの」


確かに、優しい顔に見える。


「島を見守ってくれてるんだって、信じてた」


あかねの横顔は、島への深い愛情に満ちていた。

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― 新着の感想 ―
古《いにしえ》からの伝統と7つの井戸にまつわる伝承。 そしてユートピアとしての島の暮らしが目の前に繰り広げられる描写に心動かされます。 読んでいる私も住んでみたいです。
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