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6 モーニングSSS

冒険者ギルドでは、薬草や魔獣の死体を買い取っている。そして、冒険者向けに薬草や魔獣の肉を使った料理を酒場で提供している。


モーニングは、スーパースタミナスープ、略してSSS、魔獣の骨や薬草の切れっ端を煮たスープに麵を入れたものだ。


私は、昨日、下茹でして冷ましておいた魔獣などの骨を鍋から引き上げると、丁寧に水洗いしてからまな板に載せ、ハンマーで砕いていく。

砕いた骨は、鍋に入れて水に浸しておく。一日置くと、骨の中から血合いが出てくる。これは明後日出すスープになる。


次に、昨日、同じように下処理をしていた鍋のほうに取り掛かる。

鍋の水は、出てきた血で真っ赤だ。水を捨てて、新しく水を入れると、薬草を入れて煮込み始める。よくかき混ぜないと焦げ付いてスープが台無しになってしまう。

時々、骨を叩いてエキスを出したり、水を足したりしながら、一日煮る。


昨日仕込んだスープは、炊事場スタッフが交代でかき混ぜて、白濁した汁になっている。


私は、鍋を横目に見ながらスープのたれを調理する。

たれは、豚の塩漬け肉と一緒に薬草やキノコを入れて煮た後、これを食べた人が今日一日元気に過ごせますようにと祈ると出来上がりだ。

このレシピも知り合いから教えてもらったもので、祈りは秘伝中の秘伝であり、絶対に省くことができないと言われている。


そうこうするうち、モーニングがたくさん売れ始めた。

たれとスープを合わせたものに、卵と小麦粉で作った麺をスープに入れて8ゴルで販売していく。野菜や薬草、ゆで卵、ゆでた塩漬け肉はお客さんの希望を聞いてトッピングする。トッピングは、塩漬け肉2枚2ゴル、後は全部1ゴルだ。


さっきの女の人が来たので、お詫びの意味を込め、ゆで卵を一個おまけしておいた。

私のまかないから融通したのだ。


「ありがとうございます。ヤポック村の人は優しい人ばかりで、本当にうれしいです」


ちょうど待っているお客さんがいなかったので、女の人と少し話す。

といっても、私はどちらかというと必要がないとしゃべらない、無口なほうであることもあり、話したのはほとんど女の人だったけど。


彼女は、ショルト伯爵領にある小さな村の出身で、村が魔獣に襲われたので子供連れで命からがら逃げてきたのだという。

1週間前、子供と二人で冒険者登録をして、薬草採取など簡単な仕事を受け、実績を積もうとしているそうだが、なかなかお金を稼げず、昨日は路上で夜を明かしたそうだ。



魔王討伐隊を守る王国軍にほとんどの貴族の当主や後継者が参加した。当主たちは自分の身を守るため、多くの護衛や兵士を連れて行った。


その魔王討伐隊が全滅し、王国軍もほぼ壊滅した。このため、現在、神聖ローシャン王国のほとんどの地域で魔獣討伐の人手が足りていない。


もっともアーリア公爵とその派閥の貴族領は、あまり王国軍に参加しておらず、このため他よりもきちんと魔獣も討伐されている。

このため、近隣の住民の逃亡先として人気らしい。


もちろん、移民が多くなると治安が悪くなると文句を言う人もいるみたいだ。

確かに、移民はそれまでの生活基盤を失うわけだから貧しいだろうし、そういう人が増えれば治安も悪くなるだろう。

だから、アーリア公爵は移民の数を制限するとかいろいろな政策を発表している。

その政策の当否は分からないけれど、だからといって私が、今、目の前にいる移民女性に冷たくするのは、間違いな気がする。


アーリア公爵令嬢レティシア様は一時、勇者パーティの一員で、第一王子の婚約者であり、かつ有力な聖女候補だった。

彼女は、父が男爵位を返上するきっかけになった言いがかりをつけてくるなど、幼いころから、ちょっとよろしくない評判があったけれど、まるで月の光と称されるほど美人な上、王国学園に通学中はずっと成績トップの天才で、魔力量も多く、聖女候補だった。

そんな才色兼備な公爵令嬢が、第一王子と同い年なのだ。

当然のように、レティシア様は第一王子の婚約者であり、将来の王妃、そして国母になる予定だった。

アーリア公爵も遠縁の令息を養子にして公爵位を承継させるつもりだったようだ。


しかし、聖女に認定されたのは、突然強い魔法を使えるようになったどこかの男爵令嬢であり、レティシア様はその男爵令嬢をいじめていたとして、第一王子から婚約破棄され、勇者パーティから追放されたのだ。


この関係でアーリア公爵の派閥は、魔王討伐隊に参加しなかったため、今神聖ローシャン王国の貴族の中では最強だし、この派閥で公国でも建てれば、これからも生きのこることができるかもしれない。

それを考えれば、父グッジョブと言いたくなる。



女の人は、皿を返しに来て、おいしかった、力がわいてくるみたいとお礼を言ってくれた。


「なんていうのかしら、一晩、路上にいて、全然眠れなくて、さっきまで死にそうにしんどかったのだけれど、なんだか体力がわいてくるみたい!」

そして、お礼にと食堂の机の上を拭いてくれた。ちょうどその時、ギルドの事務のお姉さんがやってきて、女の人に、住み込みの家政婦の依頼があったが受けないかと声をかけた。


「え、いいのですか!」


「めったにない、いい話だと思うわ。依頼者は高齢の女性だから、愛人募集でもないし、子供の同居もOKよ。ついさっき、連絡があったの」


女の人は支度金を受け取ると、ジョセフさんに拝むようにしながらお金を払った。


そして、私に、またDDDとSSSを食べに来ると約束して、依頼者に会うために出かけて行った。


SSS、Super Stamina Soup は、豚骨ラーメン味です。

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