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2 父は酔っ払い代官

ダイニングのテーブルの端におっさんがつっぷしている。お恥ずかしながら、うちの父である。いつも朝は、二日酔いなのだ。


こう見えても、父は、ヤポック村の代官だ。

そして、昔は、ヤポック男爵として、ヤポック村を領地として治める貴族で、妻と息子もいた。

当時の奥様は、以前、ヤポック男爵が入っていた貴族の派閥の寄り親であるショルト伯爵の娘だった。ブルネットの、ぱっと人目を惹くきれいな人だったそうだ。

弟のレオンは、奥様の子である。


しかし、父は、8年前、その妻と離婚、寄り親をアーリア公爵家に変え、そのまま爵位を王家に返上、さらに公爵家に忠誠を誓って代官に任命してもらうと、さっさと私の母と再婚して今に至る。

父は、前の結婚中から母に夢中だった上、当時から男爵邸ではなく、今の家で暮らしていた。私は、父の庶子である。

父が普通に毎晩帰ってくるので、私は、小さいころ、父と母が結婚していないことも、父に本当の奥様がいることも知らなかった。父によると、父母は幼馴染で、幼いころからお互いに思い合っていたのだという。


だから父は、政略結婚になじめず、愛を貫いたのかもしれない。


レオンは、ショルト伯爵家に戻る奥様ではなく父と暮らすことを選んで平民になった。

なにか複雑な事情があったのかもしれないけれど、面倒くさいので聞いたことはない。


さらに、街の人たちからすれば、寄り親と言ってもショルト伯爵はあまり面倒を見てくれなかったらしく、貧乏男爵領より筆頭公爵家であるアーリア領の一部になった今のほうが関税とか魔物対策とかで便宜を図ってもらえるので、ずっと暮らしやすくなったそうだ。


このため、父は、愛のために平民になった割には案外人望があり、毎晩のように出かけては飲み歩いている。



さて、私がテーブルに目玉焼きやパンを並べていると、父が何事かをうめいた。

何が言いたいかはわかっているのだが、私はあえて聞き返す。


「なに?はっきり言って?」


「うっぷ、…D、D、…DDD、をくれ」


ドリンクフォードランクドランカー、略してDDD、それはとある人から教わった秘伝のレシピで作る、二日酔いの時用のジュースである。とても苦いが、効果は高い。


用意はしていたので、すりつぶした野菜にレモン水を入れてシェイクして、木の根を煮詰めた汁を混ぜる。

そして、仕上げに祈る。

「早く、元気になりますように」

私だって、自業自得の二日酔い親父のために祈りたくはないが、祈りは秘伝中の秘伝で、絶対省くなと教えられたので仕方がない。


DDDを入れたコップを父の前においてやると、父はいかにも嫌そうに飲み干し言った。

「まずい!もう一杯くれ」


「もう、飲みすぎじゃないの」


「しょうがないだろう、魔王討伐隊があんなことになったから、いろいろ仕事が増えているからな」

父は、赤い髪が少し薄くなりかけた頭をかいた。


「だからって、毎晩お酒を飲んでもいいってことにはならないと思う」


私が説教していると、身だしなみを整えた結果、キラキラ感が大幅にマイナスされたレオンが食卓にやってきた。

「わあ、ステラ、おいしそうだね!早く食べようよ」


父はDDDをもう一杯飲み干すと、前よりましな顔色で、目玉焼きの皿を手元に引き寄せた。


簡単な感謝の祈りを捧げると、いつもと同じ朝食だ。


「それで、魔獣とか、領内の様子はどうなの?」

レオンが聞くと、父はああだこうだと話し始めた。


だいたいいつもどおり、あちらこちらに兎、猪、鹿に熊といったちょっとした獣(魔獣?)が出たらしいけれど、村の人たちで協力し、ちょっと強いのは父や冒険者が加勢してさっさと討伐したみたい。

けが人が少し出たが、かすり傷だったみたいで、みんな元気らしい。


「…スタンピードとか、怖い噂を聞いたけど、なんだか普通だね」

「まあ、ヤポック村はな」

レオンと父は少し顔を見合わせると、ちらりと私のほうを見た。


「そうなの?よくわからないわね」

私はトーストしたパンをとろとろの卵の黄身にひたしてかぶりついた。うん、おいしい。やっぱり新鮮な卵でつくる目玉焼きは、サニーサイドアップが一番だわ。


「ステラ、卵が残っているか?ゆで卵にして弁当にしたい」

父が聞いてきた。獣討伐の手伝いに行って、ゆで卵を昼食にするつもりなのだろう。


父は代官ではあるけれど、最近、アメリア公爵への報告書といった書類仕事や館の管理、冒険者への報償といった事務仕事はほとんどレオンにやらせて、自分は主に討伐の手伝いをしているのだ。


「まだ籠の中にあったよね。あ、ステラ、そろそろ仕事だろ。ゆでるのは僕がやるよ」

レオンがゆで卵作りを引き受けてくれた。


「パパは今日も外回り?大変ね。でも、飲みすぎはだめよ」

私は一応父に注意したけれど、たぶん、明日もこの酔っ払い代官のためにDDDを作るのだろう。


DDD Drink for drunk Drinker の略、今でいうところのウコンエキス入り青汁に何かを加えたもの

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