手を伸ばし足を揺らし。
私はあなたです。
あなたの内部に無数に存在するあなたです。
私たちはあなたです。
私たちは細胞とも呼ばれます。
おそらくは。
私たちすべてをひっくるめればあなたです。
あなたは無数の生物に祝福されました。
そうして生れ落ち、そうして死にます。
ひとは暗闇から手を伸ばし足を伸ばし、ゆうらりと現れ、そうしてまた、ゆうらりと還ってゆきます。
どこかへ。
何も得ることはないかも知れません。
なにひとつ、届けられないかも知れません。
ですが、あなたはひとりではありません。
この世界に生きている限り、あなたは。
まるで、まるで本物の人間ばかりが居るような世界で、私たちはいくつもの朝をこえ夜をこえ、苦し紛れに息を吐き出してそうして生きてゆくのでしょう。
正直に死ぬことなんて、あなたには必要ありません。真実を知って死ぬことなんて、あなたには必要ありません。
ただ、私たちは。
私たちは。
私たちはあなたです。
ですが、あなたの感じた痛みも苦しみも喜びもすべて、あなただけのものです。
あなたが一番、健やかに暮らせる人生を生きましょう。私たちと一緒に。
遠のく汽笛の音を、私たちも聴いています。
過去は戻りません。未来も。
ただここには現在だけが存在していて、私たちの手には何もない。
だとしても、だとしても。
あなたが苦しいとして、あなたの苦しみは誰にも届かないかもしれません。
だけれども、苦しいのを誤魔化して誤魔化して、隠して閉じ込めて、そうやって存在していきましょう。
私たちの、大切な大切なあなたへ。
あなたは私たちです。
私はあなたです。
ですからこれを書く私は、あなたたちです。
あなたたちが私と一緒に世界を見ていること、それがどうやっても嬉しいのです、私は。