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episode 7

 (サキ)の中学校にスクール・ソーシャルワーカーがやってきたのは、文化祭が終わってすぐのこと。学校の応接室に入ったきり、ずいぶんと長い時間をかけて先生たちと話をしていた。聞き取り調査というものらしい。咲も呼ばれるのかと思っていたが、後ほど家庭訪問をして、生活する上でどのような支援が必要か、話を聞きに行くと伝えられた。

 調査したことを役所の会議で議論してから、支援内容が決定する。咲と倫の学業に必要な援助、祖父の介護福祉施設への受入れ準備なども調整するようだ。生活面での相談から補助金申請も検討してもらえるなら、一家の負担も少しは減るのではないだろうか。




 秋も深まり、3年生の進路相談は終盤を迎えた。志望校が決まった者は、受験に向けての準備を始めている。

 咲は――。


「私、高校に進学することに決めたよ」


 (アユミ)の前で、宣言するサキ。


「そうか。またピアノ続ける決心がついたんだな」


「ううん。ピアノはやらない。文化祭とかで弾く機会があれば別だけど」


「どうして? サキは音楽ができる高校へ行きたかったんだろう?」


「音楽で生活ができる人はほんのひと握りでしょう? 音楽大学に入って、いい先生に習って……そんなの、すごくお金がかかることだから。ピアノは弾ける時に弾けたらそれでいい。それよりも、私がたくさんの人から支えられてきたように、困っている人たちを助ける福祉の仕事がしたい。だから高校へ行って福祉の勉強をするって決めたの」


「サキは十分頑張ってきたのに、まだ人のためになにかするのかよ」


 近くで聞いていた(リク)が咲に声をかけた。


「俺はそれでいいと思うよ。サキが自分の意志で決めたことだ」


「で、でもさ……」


「リク、アユミも、私のことを気にかけてくれて嬉しかったよ。ありがとね。進学すると決められたのは二人のおかげなんだよ。私にも夢を持てるんだって気付かせてくれたんだから」


「応援するよサキ。なぁアユミ」


「え? ああ……。サキが決めたんなら、あたしも応援する」


「ありがとう」


「でもよ、この前も言ったけど、困ったり大変な時は相談しろよな。ひとりでなんでもやろうとするなよ。と言っても、あたしなんかじゃ大して役に立たないだろうけどさ」


「そんなことないよ。アユミの言葉はとても心強い」


「ほんとは大人がもっとしっかりしてくれりゃいいんだけどな。自分たちのことばかり優先してさ、人の気持ちってのを理解しないんだ」


 歩の言葉に陸が苦笑いをする。


「大人たちだって、子供の頃はそう思っていたかもしれない。大人には大人の事情があって、一歩を踏み出せずにいるのかもしれないよ」


「なんだよリク、知ったようなこと言って」


「俺だってサキの事情を知っていたけど、どうすればいいのかわからなくて、なにもしてあげられなかったんだ。だからアユミの行動力には驚かされたよ。いろんな意味で」


「見て見ぬ振りはできないだろ。友達だからな。……ん? いろんな意味って?」


 咲はちょっと照れたように(うつむ)いてから顔を上げた。その顔は、今まで教室では見られなかった明るい表情だ。


「二人とも、本当にありがとう。諦めていたピアノが弾けて嬉しかった。アユミたちが手をさしのべてくれなかったら、もう触れることもなかったと思う」


「ピアノを弾く機会はいくらでもあるさ。強く願っていればきっと叶うよ」


「おっ、さすがリク。キザなセリフも似合ってるね」


「そういうアユミもサックス続けるんだろ? 知ってるぞ、吹奏楽部に混ざって練習してるの」


「えっ、本当なの?」


「バレてたか……。なんか面白くてさ、高校に行ったら部活に入ろうかなと思ってるんだ」


「そうなんだ。応援するよ。頑張ってアユミ」


「いつかまた一緒に演奏できたらいいな。当然リクもな」


「えっ、また巻き込むのか?」


 咲が堪え切れず、プッと笑い出す。

 それに釣られて歩も陸も笑い出した。




<おわり>




この物語は実話を元にしたフィクションです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう社会の片隅を切り取るような作品は好きです。 ヤングケアラーの問題、もっと光が当たるようになるといいですね。 [一言] サキには手が差し伸べられましたが、 未だに苦しんでいるヤングケ…
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