プロローグ 雪に閉ざされる
妖精と緑の国『ヴィリディス』その北部には『ルーチェンス領』が存在する。四大諸侯が治める北部最大の領地だ。その殆どは山や森林が占める自然豊かな土地だ。
ここルーチェンス領では今日も何かを守るように雪が降り、世界を白く閉ざしていた。
私はこの閉ざされた世界が好きだ。
吐息は白く空に還るように消え、この寒さと静けさに溶けるのがとても心地よい。
外套に雪が積もって自身も白に染められてゆく。歩みを止めて見上げる灰色の空からは、音もなく雪が舞い降りる。この光景は永遠すら感じてしまう。
それを引き留めるように遠くから透き通る歌声聞こえてきた。
隣の『旧シールバ領』に住まう人魚たちの歌声だ。彼らは古の言葉でまじないの唄を歌っている。
歌われる意味は私には分からないけど……不思議でずっと聞いていたい。私も彼らのように歌えたらな……。
家に帰る事を思い出した私はハミングしながら雪道を歩きだした。
しかし、この歌は何の歌だろう?彼等はいつもと違う歌を歌っている……何かあったのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると雪の上に誰か倒れていた。
小さな女の子だった。
私は慌てて駆け寄り彼女に積もった雪を払う。息が有るか口元に耳を近づけて確認する。小さな呼吸がきこえるが彼女はひんやりと冷たい。最悪な結末が頭を過るが彼女は薄らと目を開けた。良かった!
私は彼女を背負い家へと急ぐ。そして彼女の意識が途切れないように声を掛け励ます。
「まっててね。もう少しで家だから。」
「……気にしないで、もう大丈夫よ。」
「え?」
少女から想像以上に大人の女性の声が聞こえた。次の瞬間首筋に痛みが走り私は前のめりに倒れた。
え?……なにが起こったの?
私が顔を上げるとそこにはさっきまで背負っていた少女と似た雰囲気の大人の女性が私を見下ろしていた。口元から赤いものが滴っている。そして次第に彼女の姿は揺らぎ見たことのある人物へと変わって行った。
(ああ、私……食べられたのか……)
冷たい雪に包まれながら意識が遠のいて行った。
人魚の唄……私も歌いたかったな……。




