表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバス、夢の中では最強です  作者: 雪村灯里
第一章 玉座の悪夢編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/81

番外編 ミッドナイト•サクリファイス 後編

 俺の実の妹が、敵の花嫁候補に選ばれてしまった。

 上司ζ(ゼータ)は静かにこちらを見つめる。これ以上の動揺はマイナス評価だ。俺はそう予測して言葉を絞り出した。


「また、奴の気まぐれで未来予測が大きく狂った・・・これで俺の意志は固まりました。」

「やはりそうか。候補の中に君の妹は居なかったから、一目惚れされたな。・・・さて、意志が固まったとは。」


「アイリス、これから話すことは、聞かなかったことにしてほしい。」


 アイリスこれはζ(ゼータ)の本名だ。彼女と腹を割って話すときは必ず本名を呼ぶ。

 彼女は俺の空気を察してか眼鏡を外し、腕を組みこちらを真っ直ぐ見る。俺は計画を話し出す。


「妹、佐伯真夜に異世界と召喚契約をさせて転移させる・・・そして、先日、捕獲したサキュバスを、転移事故を装って二人を融合させる。」

「中々大胆だね。メリットとデメリットを続けて。おっと、これは独り言だ。」


 彼女は眉を動かさず、話しを聞いている。ちなみにその事故、起こすと組織委員会に掛けられるなど大事だ。もちろん上司にも監督責任で処分は免れない。それを涼しい顔して聞いているのだから彼女は肝が据わっている。


「メリットは・・魂の融合により魂が変質するから『ケイオスが結婚を破棄する可能性が高い』。サキュバス・・・“真夜の君”は本来強力な魂だが、現在は非常に弱っている。妹に融合させることにより『真夜の君の完全消失が防げる』。妹の魂の方が健康である事、また体が有る事によって、人格主導権は妹が握る。融合した妹を監視下に置くことにより『二人の管理が容易だ』。『妹を懐柔すればこちらの戦力になる』。更に現在、双方が異世界に派遣される予定の案件において、『成功率が上がる』。」


 人として、兄として如何な話だ。更に説明を続ける。


「デメリットは、魂の融合により『妹の体が変化する』。サキュバスの能力を得るので、それに合わせて変わるだろう。『魂の分離方法が確認されていない』。『契約の依頼主の一方にエージェントが未到着状態が出る』。以上だ。」


 彼女は一通り聞くと、考え込み、独り言を話す。


「デメリットを忘れている、『私とお前に何らかの処分が下る』。最後に、お前の本心はどれだ。」


「妹の無事だ。・・・また、融合して真夜の君の戦い方を知ることによって、以後万が一ケイオス側に襲われても、自分の身を守れるようになってもらいたい。それだけです。俺の駒として使う気は皆無だ。」


 ふーん、と言って彼女は資料に目を落とす。妹が任に就く予定の召喚契約(ニグルム国王陛下)の資料を見ながら、彼女の情報を見比べて眉をしかめる。


「君の妹はこの召喚契約に耐えられるのか?ケイオスの部下と一戦交えるぞ。大人しそうに見えるのだが、真夜の君と共戦するとはいえ、素人だ。付与能力だけで何とかなるか?」


 そうだ、彼女は見た目も性格も表面上、狸の様におとなしい。しかし、この妹は狂犬をも咬む狸である。

 我が家の狂犬()と長年に渡り兄弟喧嘩でやり合った実績がある。


 彼女は負けると悔しくて俺に泣きついて来るが、仕返しをして欲しいではなく、仕返しの方法を教えろと泣きついて来る負けん気を持っている。なのでこれを利用して、彼女がゲームで負けた際は俺が彼女をコーチングして、弟が負けた時は弟をコーチングして二人の実力を伸ばし遊んだ時期もあった。


 弟が荒れた始めた時は、彼女に護身術や武道を習ったらどうだと助言をした。素直な彼女はその言葉を実行した。俺の助言は功を奏し、弟が妹に手を上げようとしたら、あっさり彼女に敗れた。その時の悔しさのあまり、彼も武道を習い始めた。まぁ、そのおかげで弟の荒れた思春期は終わったのだ。短期間では有ったが簡単な事は身に付いているはずだ。


「ええ、多少の危険は問題ないかと。それに、素直で流されやすい性格でもあるので契約も問題ないかと。」


 上司の「酷い兄貴だな」という、軽蔑の眼差しは甘んじて受けよう。確かに酷い。


「そうか・・・この二人は君のエゴの犠牲になるのだな。それに契約者にも私にも迷惑がかかる。・・・覚悟はできているか?」

「・・・はい、どんな処分でも受けます。」


 彼女は少し黙り、未来予測を始めた。目が薄っすらと光る。ニヤリと笑いゆっくりと話し始めるが、段々と早口に成っていく。


「まあ、マヤマヨの二人を生かす点では面白そうだ、二人のアフターケアは頼んだぞ。それに、契約者双方の願いも終点が同じだからな。未着が出る側に『()()迎えに行かせる』と伝えてくれ。()()()()()()()()()()()()。・・・事故による処分だが、お前のお土産(メリット)は爺どもが好みそうだ。最悪減給で済むように立ち回るが、爺共を寝かしつけるのにちょうどいい(クソ長い)報告書を頼むぞ。あと、巻き添えで減給になる私だが、自炊をしなくてはならない。私は料理が苦手でな。うまく作れずやつれてゆく未来が見えた。これも独り言だ。」


 この上司、いやアイリスめ・・・どんな処分でも受けると言ったが、飯を作れだと?そこにはひとまず触れずに話を進めよう。


「独り言、ありがとうございます。丁度、事務作業したいと思っていたので、報告書は任せてください。」


 彼女は「私のごはんはどうする?」可愛く小首を傾げてと無言の圧をかけてくる。時代が時代でも異世界に行っても、パワハラとセクハラだ。・・・だが、俺達はそんな事を主張する仲ではないので、こう答える。


「・・・分かった、俺が作りに行く。」

「独り言なのに、君は優しく気遣いが素晴らしいな。ではマヤマヨは君に任せた。首尾よく頼む。」


 彼女はにっこりとそう言って、眼鏡をかけ上機嫌に部屋を出て行った。

 これで済むなら。安上がりだ。

 何とか『真夜の君』と『真夜』の方針が決まった。役者は揃った。滞りなく演じられるように準備を進めよう。


 俺は2件同時に異世界転移を行なうので、『真夜の君(まよのきみ)』の転移に立ち会えなくなった。代わりに、何も知らない同僚μ(ミュー)に立ち会いを依頼した。


 あくまで立会いだけだ。


 全責任は俺になるよう、転移魔法陣や資料など重要な部分を準備して、彼女に引き継ぐ。ただ「時間だけは未定で俺から指定する」とだけ伝えてこちらの準備は終わった。


 次は真夜(マヤ)の保護だ。前々からの未来計測で明日の夜にケイオスが動く事は分かっていた。

 この保護でコケたら終わりだ。12時間前から彼女の周辺に異変が無いか観測する。奴が現れる時は異変が起こる。そして、奴が真夜を攫った所を俺が奪還する。


 ちなみに、妹は俺の事を覚えていない。俺も過去、ケイオスに存在ごと居場所を奪われた口だ。なので、全世界から俺の記録と記憶は消えている。なので今回彼女とは他人として話すことになる。


 予定時刻になった。夜10時。彼女が住む部屋の周りの空間に亀裂が入る。少しずつでも確実に切り取っている。


 ―――ミシッ!


 完全に空間が切り離された所で家が軋んだ。それと同時に部屋の照明が落ちる。

 切り取られた部屋の上に、半分欠けたキツネ面を付けた青年が独りポツンと座っていた。

 ケイオスが現れた。あのキツネ野郎。俺の妹に手を出しやがって。

 奴は余裕そうに窓ガラスをひっかいて遊びだす。



 ―――カリカリカリカリ・・・



 俺は部屋の床側に回り奪還用の魔法陣を転写した。

 部屋の中から小さな悲鳴が聞こえる。そうだ、妹はこの手の怖さが苦手だ。昔と変わっていない様だ。


 妹がこの陣を踏むと発動する。発動まで3・2・1・・・捕まえた!俺も急いで帰還用の魔法陣を踏み抜く。俺が魔法陣に溶け込むところを、ケイオスがニヤリと笑いながら、左手の甲をこちらにかざした。薬指に黒い指輪が嵌っていた。婚約指輪を見せつけて・・・キツネ野郎、俺を煽ってやがる。


「妹とお前との結婚なんざ反対だ。おとといきやがれ。」


 そう言って俺は、彼に中指を立てて見せつけてやって、魔法陣の中に消えた。

 魔法陣から抜け出て床に着地する。床に蹲る女性が居た。良かった。無事、妹を奪還できた。

 5年ぶりに会う妹はすっかり大人になっていた。髪が伸びたな・・・


「大丈夫?」


 と彼女に声をかける。ピクリと反応してゆっくり顔を上げる。

 そうだ、真夜だ。再会にこみ上げて来るものが有るが、ここで泣いては彼女が不安になる。

 まだ状況が理解できていないようで、周囲を見渡す。「ここはどこ?」と聞かれて困ってしまった。正直に説明するには複雑すぎる。なので、悪い夢とだけ伝た。

 さて、ここからは時間との勝負だ、だが焦って不信感を持たせてもいけない。俺は仕事に取り掛かった。


 ◇◇◇


 妹の転移が終り、魔法陣の光が収まる。ケイオスに追い付かれる前に送り出せて良かった。

 転送魔法陣へと飲み込まれた彼女は何か思い出したのだろうか・・・俺の正体を明かすつもりはなかったのに。感傷に浸っていると、扉をノックする音が聞こえた。


「べー太、入るよ~。」


 俺の事を“べー太”と呼ぶ女性は、何も知らない同僚のμ(ミュー)だ。薄いピンク色の髪と紫色の瞳、極めつけは幼女というファンシーな見た目だが、年齢は俺のx倍生きている。そして、こいつにはパーソナルスペースという概念が無いので、だれ彼構わずくっついて来る。そう、こうしている間にも彼女は俺の右隣に寄ってきた。


「妹さん無事に行った?女王様(真夜の君)の方も無事転送出来たよ~。ひゃー!この前の件もあって怖いかなって、思ったけど、今日会ってみたら全然毒気が無かったから拍子抜けしちゃったよ。」

「ああ、こちらは間に合ったよ。真夜の君の件とても助かった。ありがとうな。・・・そうだ、妹がお前の事『可愛い』って言ってたぞ。あと、服と靴ありがとうって。」


 真夜の君の転移作業で疲れていた彼女だが、『可愛い』と聞いてこちらを見て目を輝かせた。


「ふふん!可愛い子に可愛いって言われると、照れちゃうな~もう!妹さんべー太そっくりで驚いちゃったよ。―――あ!ケイオスの反応が消えた。ホントあいつは粘着質!!」


 本当にそうだ、ケイオスの所為で仕事が増える。彼女は俺が持ってる資料を凝視している。まぁ、共有資料なので構わないのだが・・・、いつもより食い入るように見ているので、こちらも気になる。

 途端、資料を見ていた彼女が眉間にしわを寄せ首を傾げる。これはまずい・・・


「べー太?この資料おかしくない?転移魔法陣の座標・・・ちょっと!資料見せて。」


 そう言って彼女は俺から資料を奪い、自分が持っていた資料と二つを宙に浮かせて見比べる。これは思ったよりバレるのが早い。彼女、こんなに仕事熱心だったか?


「妹さん、この座標だとさ、さっきべー太から頼まれて転送した女王様と軸が近くない?交差しない?同じ世界・同じ国に行くとしても変。」


 彼女は宙に計算用の画面を開いて、座標の計算を始めてしまった。5分程計算して、彼女は頭を抱える。バレてしまった。俺はしゃがみ込み、素知らぬ顔で計算画面を覗く。そして、ひと芝居。


「まさか!そんな・・・本当か?」


 彼女はぎょっとしながら俺を見て、宙に浮いている画面の中に表示されている図を見せて解説する。


「ほら、この部分で交差している・・・わぁ~・・・事故だよ事故。接触じゃなくて衝突だったら、最悪妹さん、サキュバスと融合しちゃうよ?」


 まあ、融合させるつもりで俺は座標と時間まで計算して実行したから・・・その正確さには自信が有る。その正確さが証明されて良かった。

 彼女は何か考え込み、ビクリとした。そしてゆっくりとジトッとした目で俺を疑うように見る。そして、久々にパーソナルスペースを思い出したようにそっと俺から離れた。


「え・・・まさか・・・わざと?妹だよね?まさか・・・融合して魂変えて、ケイオスから・・・。確かに、考えは(よぎ)るけど、ホントにやるんだ。鬼ぃ~。」

「何言ってるんだよ、人聞きの悪い。大切な二人にそんな事するかよ!」


 いや、したんだがな。μは曇りのない目で俺の目を見て真贋を探っている。まずい、ここでお前の能力を使われると勝ち目が無い。負けじと見つめ返すが、とうとう目を泳がせてしまった。こいつ、普段は資料に興味も示さないのに、こんな時に限って見つけるなんて。ジト目の彼女は冷酷に言い放つ。


「事故報告書、ベー太が全部書いてね。」

「わかってる、勿論だ。両方とも責任者は俺だ、μは代理で立ち会っただけで何もしていない。」


 彼女はそういって、少しほっとしていた。


「じゃあこの後ζ(ゼータ)への報告よろしくね!」


 この件が発覚して、書類を作るまでに時間が有るだろうと思ったが・・・予想より早く資料作りや事後処理に追われることになってしまった。俺の先見の力もまだまだのようだ。今日から残業だ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら、ブックマーク・評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ