公女殿下は自立したい!~夢見る世界のショコラティエ~
ショートショートなお話です。
「ミティアお嬢様……残念ながら、リルウッド公王はお認めになりませんでした。素直にお嬢様の口からおっしゃってはいかがですか?」
「お父様のことだからそう言うだろうと思っていたわ! だからアッシュ。わたしは行くわ!」
「どちらに?」
「決まってるわ! 自立するの! 好きなだけチョコレートを食べられる専用のお店で仕事をするの。出来れば住み込みがいいんだけど、無ければ自分で探してそこに住むわ!」
お父様の過保護にはもううんざり。成長成長って言うけれど、甘みの無いスープやアップルパイをどれだけ口にしても満足のいく栄養なんて得られないもの。
何度魔法で味を変えたのか分からないくらいだわ。ただでさえ心配性のアッシュがそばに付いているだけでも大変なのに、十八にもなって一人で何も選ばせてくれない生活はこりごり。
どの街に行くかは決めてないけど、お小遣いはかなりたまっているし魔法が得意なわたしなら、きっとすぐにでもお店が見つかるわね。
お父様のおうかがいを立てるのも面倒だし、直談判したら謹慎させられそう。寝静まる頃を見計らって出て行くのがきっといいわ。
そして決行の夜。
信頼出来る馬車を手配して、街に繰り出す――そういう手はずを整えていたわたしだったのに、馬にまたがり急いで城から追いかけて来る騎士の姿があった。
「アッシュ。どうしてついて来たの?」
「わたくしめの身は、生涯においてミティア様に捧げるものにございます。お一人で旅立ちをされると決められても、それが途切れるものではございません」
幼き頃から護衛されてるから慣れがあるとはいえ、アッシュの言葉は何とも言えないもどかしさがある。文句を言いたいところだけど言うに言えない。
「……はぁ、まぁいいけど。手配した馬車を捨ててその馬に乗ればいいの?」
「その方がよろしいかと。馬車だとすぐにでも城の騎士が気付きますゆえ」
「仕方ないわね……」
馭者には静かに帰ってもらい、わたしはアッシュの腰に掴まって馬に乗ることになった。
護衛騎士だけあって、アッシュは端正な顔立ちをしている。もうすぐ二十一になる彼の精悍な輪郭だけで判断すれば、頼りになりそうとさえ錯覚してしまいそう。
「それで、これからどこへ向かえばよろしいのでしょう?」
「とにかく賑やかな街! 本当は国を出たいけれど、とりあえずどこかひと気の無いお店を探すわ!」
「で、では、お供させていただきます。ミティアお嬢様」
「そうかしこまらなくてもいいのに」
お父様から逃げるようにして飛び出したけど、書き置きは残して来たし護衛騎士もいるからきっと大丈夫でしょ。
どの街にたどり着けるか分からないけど、得意の魔法を使って甘い世界を作ってみせるんだから。
お読みいただきありがとうございました。
物語の続きは、中編または長編で予定しています。