残念なイキモノ
クスクスッと笑う相良は──そうあの時の同じ目を細め笑っている。
その瞳は冷ややかに俺を捉えていた。
ゾクゾクゾクゾク──ッッ!!
背筋に寒いものが突き抜けていき、俺は絡め捕られたその瞳から目を逸らせず体を強張らせていた。
やはり……。
俺は再度認識させられる。
こいつの掌の上で『生かされている』という事実に。
ヤバい──本気でヤバい。
実は連れて行くという言葉に乗じて、相良を消そうと思っていた。
たぶんそんなチャンスは二度と来ないかもしれない。
それに賭けようと思っていたのだ。その為に身に着けるモノは慎重に選びたかったのだ。
──それすらさせてもらえないのか……。
俺は笑うしかなかった。
この業界ではちょっとした知名度はあったつもりだ。
それなりに腕もあると自負していた。
そのプライドなど粉々に吹き飛ぶ程の存在……。
俺はとりあえず、持っているぶかぶかのパーカーにハーフパンツを履くと外へ出た。
手にしたのは携帯と財布だけである。
あーそれでも『仕事』は遂行しなければならない。
まぁ現地で考えるしかねぇな……そういう頭に切り替える。
あの相良と一緒でどこまで仕事をさせてくれるのかはわからんが……考えても無駄なのかと自嘲気味だった。
──今、相良を消すのは妥当ではない。
俺は一つの道を選択した。
消してしまえばとりあえず脅威は消えるのか……否。
その前に奴を消すことは可能なのか……否。
結論……こいつから何かしらを引き出す。
「あら、案外素直さんやなぁ」
俺の姿を見て相良は想定外と言わんばかりの顔をしている。
「てっきり言いつけを守らんおもーてたわ」
「ボクはちゃんと約束守りますよー」
俺はできるだけ小学生っぽく言った……つもりだった。
相良はそんな俺を見てクククッと笑っている。
俺は屈辱だったが……全ては俺が元に戻ったら、だ。
目にもの見せてやる。
「で、どうやって行くんだ?」
俺は一番の疑問をぶつけた。
ここから行く方法は聞いていない。
相良は俺に手を出していた。
「徇くんーキー出してよ」
「へ?」
俺はその言葉に素っ頓狂な声を出してしまう。
何言ってんだ?
「ちょっとバイク貸してよー」
そう言いながらニヤリと笑っていた。
「お前……人のバイクで行くつもりだったのか……」
俺は呆れて溜息をついた。
「うん、貸してー」
屈託のない笑み……何も知らない人が見たらそうなんだろうなぁ。
爽やかな満面の笑みでサラッとそんなことを言う。
俺は全てを諦めた。
なんだろう……この残念なイキモノの全てを諦めた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ」
調子が狂う。
本気で調子が狂ってしまう。
俺はその場を離れると……アパートの自室へ鍵を取りに帰ることにした。