取り引き
「わかった……取引だ」
徇の絞り出すような『提案』に、琉生は眉をひそめる。
「ここにきて、何か交渉をもちかけるのですか?」
「俺を……『エルピス』をお前にくれてやる……だから」
その言葉は琉生の興味を十分に惹いたのか、腕を組んで徇の『提案』に耳を傾ける。
「なるほど……それはあなたが『エルピス』に戻ったら、身も心も全て僕のモノということでよろしいのでしょうか?」
徇は今までにない程、全力で首を縦に振った。
琉生は「ふむ」と考え込む。
そしてその潤んだ目で自分に懇願している徇を眺めながら、その口角は微かに上がった。
「いいでしょう」
その言葉で徇は解放されたかのように、全身の緊張が解けていく。
安堵の溜息をついた徇の首に、何かが着けられる音が微かに聞こえた。
徇は一瞬びっくりした顔をして、掌を自分の首に這わせる。
「!?」
そこには……Domの所有物の証である首輪が装着されている。
「これで契約成立です。もし勝手に外すことがあれば……その時は僕も本気を出しますので」
Domである琉生が自分に対して本気を出されたら……Subである今の徇は成す術がない。
琉生を睨みつけると……絞り出すかのように一言「──殺してやる」と呻く。
そんな殺意の籠った徇の目に、琉生は怯むこともなく目を細め……笑っていた。