この世界の境界線
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──コマンド。
それはDomがSubに対して執行することのできる命令である。
世の中には『男』や『女』という性の中にも、ごく少数派で『Dom』や『Sub』という、抗えない性が存在していた。
絶対的な理として存在するのが、DomがSubを縛ることのできる〝コマンド〟である。
そしてDomが発するコマンドは、抗えない快楽の楔となってSubの全てを支配する。
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〝Kneel〟
その言葉が徇の全神経を……全ての感覚を一瞬にして支配する。
何が起こったのか理解できないまま、体だけはそのコマンドに反応した。
ペタンッとその場に座り込んでしまう。
体の全てを支配されてしまったような感覚──。
抗うことを一切許さない、その絶対的な瞳が徇を捉えて離してくれない。
「まだ理解できないようですね」
徇にその言葉を向ける男……隣に住んでいる優男だと思っていた琉生の鋭い眼差しが、舐め回す様に徇のその姿を眺める。
徇は今まで感じたことの無い恐怖で、小刻みに震えていた。
「待て……違う……」
徇は意識の一片を奮い立たせ、事実を否定する。
「何が違うのでしょうか」
琉生がニヤリと笑うと、その指が徇の頬を……そして唇をなぞっていく。
その感覚に徇はビクンッと震えると、全てを否定しようと首を横に振った。
「どれだけ否定しても、今のキミはSubなんです」
耳元で囁き、徇の耳朶にその舌を這わせる。
今まで感じたことの無い感覚が全身を駆け抜け、そのまま快楽に堕ちていきそうな意識を、徇は必死に繋ぎ止める。
必死に自我を保とうと足掻くその瞳には、耐えきれなくなった感覚が涙となって滲ませる。
その表情を捉えると、琉生は恍惚な笑みを浮かべた。
「ほら、体は正直です。理解できなくていいですよ、今から証明してあげる」
「ま……待て、お前これは流石に……」
徇は今の自分を理解はしていた。
そう……この12歳というカラダを……回避する言い訳が欲しかったのだ。
「流石に何ですか? まさかあなたが今更倫理観を出してくるのですか?」
その言葉に……徇は自分が言い訳にしようとしていたコトが、〝エルピス〟という殺し屋の自分が持ち出そうとしていたコトが滑稽過ぎてしまい、顔を真っ赤にして否定した。