猫の毛の君。
いつか、話してくれた事があったね。
どうして「結果」が分かってるのに
始めてしまうのか。
また同じ結末を繰り返して
どうして学ばないんだって。
利口な君がそう言うんだから
きっと世論はそうなんだ、と思った。
今日も君は、口を開かない僕に語りかける。
木のバスケットに入った色とりどりの果物には
いつものように花柄のハンカチが被せてあった。
その中の真っ赤なリンゴを一つ手に取って
君は器用に皮を剥く。
子供を寝かしつけるような表情で。
君はずっと僕に語りかける。
ーーーーもういいよ。
もういいよ。
そこまでしてくれなくていい。
自分でも、わかっているんだ。
これは僕の罰だ。
罪だ。
許されようとした、事の顛末。
この先は望んじゃいけない。
望むべきじゃない。
その資格はない。
だから。
心が先行して、口は開いたまま。
空気を震わすことはなくて。
君は気付くことなく、語りかけることをやめなかった。
何一つ聞き取る事なんて出来やしないのに
その唇の動きひとつひとつ
目を離せずに、言葉じゃない感情が流れ込んだ。
そんな目線に気づいたのか
語りかけるのをやめて、君はゆっくりこちらをみた。
病室の窓の隙間から、遊びに来たような風が
君の生糸のような猫の毛と戯れて遊んでいる。
ゆっくりと。
僕にも分かるように。
「 」
卑屈な僕を
脆弱な僕を
そして、傲慢な僕を
救う言葉。
自分だけは恨まないで。
「君に分かりっこない。
息苦しいこの世界で
狭苦しいこの世界で
生きさせられるこの辛さなんて。」
僕は、この言葉が最後にならなくて
本当に良かったと思う。