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第八話 ストーカーの愛が重すぎる件について

昼休みの一件から悶々とした一日を過ごしたが、どう接して良いのかわからずに放課後のバイト先に向かっていた。



「春日井くーん」


「ああ今日出勤ですか」



 バイト先の裏口に到着したところで、後ろから聞きなれた女性の声がしたので振り返ると、聖愛(せいら)が駆け寄ってきた。



「えーなんか冷たいー」


「どういう反応を俺に期待してたんですか」



 こうしているとどっちが先輩かわからなくなるような緩い雰囲気に、少々苦笑いしつつ、一緒に裏口から中に入る。



「着替え先にどうぞ」


「一緒に着替えないの?」



 更衣室は1つしかないので、先を譲るとニヤニヤと笑みを浮かべながら聖愛が返してくる。



「じゃあお言葉に甘えて、ちょっと奥に詰めてください」


「ちょっちょっと冗談だよ!エッチ!」



初心(うぶ)なくせにたまにこういういたずらを仕掛けてくる聖愛の扱いには慣れているので、軽く流して着替えを待つ。



「⋯⋯終わったよ、覗いて無いよね?」


「はぁ、覗いて無いので早く先に行ってください」



 心配するくらいなら余計なことを言わなきゃ良いのに、聖愛は安心したようにバックヤードを小走りに出ていく。



「着替えるか」



 気持ちはモヤモヤとしたままだったけど、仕事中に態度に出すわけにもいかないので、制服に着替えて気持ちを切り替える。



「おはようございまーす」


「春日井くんおはよう、今日もよろしくね」



 相変わらず疲労の色の残る店長は、俺と聖愛に簡単に仕事を引き継ぎ、帰っていく。



「店長過労死しないか心配ですよ」


「ねー」



 コンビニの闇を垣間見つつ、聖愛と一緒にレジに立つ。



「それはそうと、春日井くん元気なくない?」


「・・・・・・そんなこと無いですよ?」



 年の功なのか、いつもは緩い聖愛がやけにするどい。



「悩みがあるならお姉さんに話してみなさい?」



 ドヤァ。と擬音が出そうな程にその豊満な胸を張って言ってくる聖愛。


 制服の縦縞が不自然に歪んでいる様は圧巻だが、まじまじと見てしまうとバレそうなのでとっさに目を逸らす。



「⋯⋯別に何もないですけど」



 関わることも無いだろうと思った聖愛にごまかしながら続ける。



「女の子から弁当を作ってもらったんですけど、その子と関係性が微妙な感じで、好かれてるか嫌われてるかわかんないんですけど、どうしたら良いと思います?」


「えっなにその面白そうな話!モテモテじゃないか少年!」



 目をキラキラさせながら返してくる聖愛に話したことを心から後悔した。



「別にそういう感じじゃないと思うんですけどね」


「でっでも⋯⋯私としてはちょっと嫉妬しちゃうかな」



 そう言いながら上目遣いで制服の端をきゅっと掴んで言ってくる。


 黙っていれば美少女な聖愛(せいら)にそういわれて不意にドキッとしてしまう。



「あの、からかってるのバレバレなんで」


「あら、やっぱり?」


「やっぱりじゃないですよ、やめてください心臓に悪い」


「でもその子のことは春日井くんがどうしたいかじゃないかな?」



 どうしたいと言われても、俺はどうしたいのだろうか?


 でもこのままよくわからない奉仕を受け続けるのもモヤモヤする。



「ちゃんと話をしてみたらいいんじゃない?」


「うーん、話ですか」



 いままでの古賀の態度を思い返して、まともに会話が成立するとも思えない。


 かといってこのままの状況でも精神衛生上良くないことは確かだ。


 どうしようかと悩みつつバイトが終わるまで、やっぱりモヤモヤとした気持ちが無くならないのであった。



 バイト終わり、自宅に到着すると今日もドアノブにタッパーがかかっていた。


 昼の弁当が無いので完全に油断していたが、いつまで続けるつもりだろうか?



『大好き』



 また言葉がフラッシュバックして余計に思考が混乱する。



「あーもう考えるのはやめだ!とりあえず食べよう」



 テーブルの上にタッパーを乗せて中を開くと、出汁の香りが鼻孔をくすぐる。


 今日は肉じゃがのようだ。


 電子レンジで温め直して、パックのご飯もスタンバイ。


 まずはジャガイモを口に運ぶ。



「めちゃくちゃおいしいんだよな⋯⋯」



 味の染みたジャガイモはしっかりと奥まで火が通っており、口に入れた瞬間にほぐれてとろける。


 そういえば同居していた時に何回か食べたことがあるが、本当に料理上手だよな。



「ごちそうさまでした」



 今日は素直に感謝の念を空になったタッパーに向けて告げる。


 弁当箱とタッパーをどう返そうか、前みたいに玄関先に置いておくのもなんだかなあ、と考えながらタッパーが入っていた袋をつかむ。


 何か紙が入っていた。


 今度は何かと恐る恐る紙を開くと、綺麗な文字で何か書かれている。



『今日は肉じゃがにしてみました。食べ終わったタッパーは玄関先に。それと仕事中に不真面目なことは良くないと思います』


「怖いよ!」



 今日の聖愛との絡みを思い返す。


 恋バナにテンションの上がった聖愛は、やけにスキンシップが多かったが、まさかどこかで見ていた…?


 怖くなった俺は周りを見渡す。


 まさか⋯⋯監視カメラが設置されていたり。



「まっまさかな」



 そう口には出したが今日も眠れぬ夜になりそうだと肩を落とし、早急に古賀と話さなければと密かに覚悟を決めるのであった。



読んでいただきありがとうございます!


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