表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/36

第二十八話 元義妹のいない日常


 私は馬鹿だな。

 

 颯太くんに心を開いている。信頼しているというのは思い込みで、いつも私を見てと怯えている弱い人間だ。


 嫉妬深くて大好きな人を困らせる、面倒な女の子。


 自分の中の壁を破ることができたと思い込んで、結局壁の中から愛してと叫ぶ卑怯な女。


 強くならなきゃ。そう思う度に、心がもう限界だ傷つきたくないと悲鳴を上げる。


 あぁ颯太くん、困った顔をしていたな。


 怒っているようにも見えたな。


 あんな顔をさせてしまう私は、やっぱり人を好きになる資格なんか無くて。 

 

 颯太くんと一緒にいたい。でも一緒にいると私自身が私と颯太くんを壊してしまう。


 だから一度リセットしよう。


 颯太くんを遠目で見るだけで本当に幸せだったし、そのくらいの距離感が私には良かったのかもしれない。


 私の不器用な初恋は、ここで一旦終わり。


 たまに隠れながら颯太くんを見ちゃうかもしれないけれど、そのくらいは許してね。






 朝起きると桜の姿はもう無くて、リビングには朝食だけが用意されていた。


 即座にメッセージアプリを開いて送信するも、いつも一瞬で帰ってくる返信も無い。


 冷蔵庫を開けると桜が買い込んでいた食材は全て調理された後で、綺麗に小分けされて並んでいた。


 室内はいつも以上に綺麗に掃除されていて、塵一つ無いのが見て取れる。


 昨晩の一件を思い出しながら、誰もいなくなった部屋を見回すと、まるで半年前に戻ったようにも思える。


 そんな考えがよぎってしまう程に、今まで心地よかった空間が寒々とした空気に包まれていた。



「いや、そんなわけ無い。いつもみたいに気付いたら後ろに立ってるだろ」



 自分を信じ込ませるために呟いた言葉に、返答はあるはずも無かった。


 ◆


 悪い予感は得てして当たるもので、あの日以降桜からの連絡は無く、父さんと祖父母の家に帰っている間メッセージの返信も無かった。



『何をしているんだ?』


『この前のことは俺も気にしていないから』


『しっかり話したい』



 そんな上辺だけの言葉しか出てこなくて、全てのメッセージに既読すら付くことは無かった。


 あの時、俺はどうするべきだったんだ。不安を打ち明けてくれた桜を欲望のままに抱きしめたら、今まで通り楽しく笑い合えていたのだろうか。


 そんな考えが幾度もよぎっては「違う」と自問自答することを繰り返した。


 桜に会いたい。


 そう強く思う度に寂しさと焦りが込み上げてきて、スマートフォンの通知が鳴る度に、祈りを込めながら画面を開いて落胆した。


 ゴールデンウィーク最終日、自宅に帰ってきてすぐに桜の家にも行ったが、エントランスで呼びかけてもオートロックが開くことは無い。


 一度マンションの外に出て、桜の自宅と思われる部屋を見たけど、カーテンがかかっていて中の様子は見て取れなかった。


 家にいないのか?そう思って周囲を散策したが、当然のことながら都合良く出くわすようなことは無い。


 そのまま、夜まで待ったが部屋から漏れる光を確認することも、カーテンが開くことも無かった。



「これじゃあ俺もストーカーだな」



 自嘲するようにそんな言葉を漏らして、俺のゴールデンウィークは喪失感と共に終わりを告げた。







「ねえ、そうちゃん何かあったの?」



 ゴールデンウィーク明けの学校で、訝しげにこちらを覗くのは幼馴染の千歳。



「何も無いって。別に普通だろ」


「そんなわけ無いじゃん。負のオーラがすごいよ?目の下のクマも酷いし」


「ああ、ゴールデンウィーク中ゲームにはまってしまってな。連日徹夜でプレイしてたらこの有り様だ」



 あくまで楽し気に伝えると千歳はこちらに顔を寄せてきて、胸ぐらを掴んで無理やり引き起こされる。



「おっおい何するんだよ!」


「そうちゃん、幼馴染舐めてるしょ?」


「……何のことだよ」



 射貫くような視線に目をそらすが、より一層力を入れて引き上げられる。



「言いたくないなら聞かない。でも、いつでも力になるから言って。私はいつでも待ってるから」



 言葉は優しいが、周囲から見れば恫喝しているようにしか見えないだろう。


 赤子の時からの付き合いだ。小さな嘘もお見通しってことか。


 事実俺は憔悴していた。


 まあ、連休明け早々に血色の悪い男がいたら友人で無くとも気付くか。


 でも、おいそれと人に話すことでも無い。これは俺と桜の問題だ。



「本当に何も……」



 そう言いかけて見た千歳の顔には、心配と不安、そして怒りが入り混じっていた。


 千歳にまでこんな顔をさせてしまうのかと、疲れ切った心にさらに追い打ちをかける。


 困っていたら助けたい。そんな単純な感情なのに、打ち明けてくれないというのは悲しいものだ。


 それはつい先日、俺が桜に抱いていた感情そのままで、悲し気な千歳の顔は俺の写し鏡のようだった。



「千歳……相談したいことがある。放課後ちょっと良いか?」



 だから、信頼しているからこそ、弱音を見せられる相手だからこそ、素直に頼ろうと思った。



「もちろんだよ!」



 満面の笑みで拘束を解除してくれる。


 

「お前らは何をやってるんだか」



 呆れた声で樹が話しかけてくる。



「うーん、そうちゃんが素直じゃないから懲らしめてた!」


「……物理的にな」


「何か言った?」



 先ほどのような鋭い視線でこちらを見るものだから、何も言わずに押し黙る。



「仲が良いのはいつものことだけれど、少しは周りの目を気にしような?」


「うっ……気を付ける」



 先程まで暗かった気持ちも、友人と話すと少しだけ晴れた気がした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


完結まで残り少なくなってきました。

ラストまでよろしくお願いします!


よろしければブックマークと★から★★★★★で率直な評価をいただけると、今後の励みになるので嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ