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第二十六話 私だけが欲しい元義妹


 まだ足りない、もっと私を見て。


 私になら何をしても良いんだよ。


 雨宮さんだってさせてくれないこと、何でもさせてあげるよ。


 だから、私だけを見て。


 颯太くん、この手を離さないで。





 俺はランジェリーショップ、いわゆる下着屋にいた。



「最近少しサイズが変わってしまったようで、少しきつくて」


「それで?」


「颯太くんのお好みのものを選んでください!」


「自分で選べよ!?俺は外で待ってるからな!」



 そう言って背を向けるも、勢い良く手を引かれる。



「なんでそうやって意地悪するんですか!いいじゃないですか私なら着けてるところをいつでも見せてあげますよ?」


「いやお前、今日のテンションおかしくないか!?」



 そうして店内で大騒ぎしていては悪目立ちもするだろう。


 周囲の視線を感じる。



「あのーお客様」



 ついに店員さんも苦笑いをしながら近寄ってきた。



「ほら、迷惑になるので好きな色を教えてください」



 やっぱり今日の桜はいつにも増して行動がおかしい。


 この地獄の空気から逃れたい一心で早々に質問を返すことにした。



「あー黒とか」



 俺としてはいたって真面目に返したつもりなのだが、桜と横にいた店員さんも目を丸くしている。



「颯太くんなら無難な色を言うかと思ったんですけど……エッチですね」


 

 ミスったあああ。ここは無難に白とか言うところだったのか。



「それじゃあ、外で待ってるから!」



 つい本音が漏れてしまったことに後悔しつつ、この空間にいることに限界を迎えていた俺は、足早にその場を後にする。


 何度も頭をよぎる下着姿をかき消して、一人下着屋の陰で悶々とした気持ちのまま桜を待った。





「ありがとうございます!無事に買えました」


「それは良かったですね」


「なんだか冷たいですね。あっ試着しているところを見たかったんですか?」


「馬鹿野郎」


「颯太くんにならいつでも見せてあげますからね」


「いや、顔を真っ赤にしてあなたは何を言ってるんだ?」



 やはり今日の桜は変だよな。


 何だか、無理しているというか。



「なにかあったか?」



 至って冷静に聞く。



「なっなんでも無いですよ」


「本当に?」


「本当です!」


「何かあったら言えよ?」


「本当に何でも無いですって!次行きましょ!」



 明るく言い放つ桜から先ほど感じた違和感は消えていた。



「どこか行きたいところがあるのか?」


「あの私、ここに行ってみたいです」



 目の前にはショッピングモールの一角にあるゲームセンター。



「行ったこと無いのか?」


「えっと、行ったことはあるんですけど」



 少し悩んだ後に桜は意を決したように告げる。



「颯太くんとプリクラを撮ってみたいです」


「プリクラ?いやいやどうしたんだ突然」



 男子高校生にプリクラを日常的に撮る文化は無いけど、女子はこういうものを撮るのが好きなのだろう。



「桜は結構撮るのか?」


「いいえ、一回も撮ったことありません!」



 自信満々に言うが、じゃあなんで?



「颯太くんは撮ったことありますか?」


「いや、無いよ」


「じゃあ私が初めて?」


「……まだ撮るとは言ってないんだが」



 そう言うと服の裾を掴まれる。



「もう我儘は言いませんから」



 懇願するように見つめてくる桜に抵抗する術を待っていないのは自分自身が一番理解していた。



「あーもうわかったよ!」


「えへへ、ありがとうございます!」 



 そう言うと桜は俺の手を引いて奥へと進んでいく。



「安心してください、しっかりとネットで調べてきましたので!」



 プリクラってそんなに事前準備が必要なものなのか?



「さて、颯太くん。どれを選べば良いのでしょうか?」


「いや、俺が知ってるわけないですよね!?何を調べてきたの!?」

 


 大きな張り紙には「カップル・女性グループ限定」と大きく書かれているプリクラコーナーには、何台もの機械が設置されていた。



「桜はこういうの友達と来たりしないのか?」


「うーん、なんだか苦手なんですよね、こういう遊びって」



 いや、なんで今日は来たんだよ。とツッコミたくなる気持ちを抑えて、二人で様々な機種を物色する。


 たくさん種類があるが、全部同じ物にしか見えない。


 ちょっと恥ずかしいけど店員さんに教えてもらった方が良いのかな?と思って周囲を見渡した時だった。



「あれー?古賀さんじゃん」



 目の前にいたのは、確かサッカー部だったか結構モテるって話は聞いたことがあるけど、あんまり良い話は聞いたことが無いイケメン君。


 千歳も前に言い寄られて困ってたな。



「こんにちは」


「あれ?隣にいるのって確か兄妹だっけ?名前が……カワイ君?」


「春日井だけど」


「あーそうだった、ごめんごめん」



 軽いノリで絡んできたが、桜はあきらさまに嫌そうな顔をしている。



「それで今日は何?兄弟デート?」


「あなたに関係ありますか?」


「そんな冷たいこと言わないでよ〜てか意外と仲良いんだね。もしかして付き合ってるとか?禁断の恋じゃん!」


「もっとあなたに関係ないと思うのですが」



 よく見ると男の後ろには女の子が立っていて、訝しげにこちらを見ている。



「いやもし付き合って無いんだったら俺にもチャンスあるかなって。お兄ちゃんより俺の方が良くない?」



 男は後ろの女の子に聞こえないように小声で桜に言う。


 あれ?なんだか肌寒いぞ?それも右半身だけ。


 隣を見ると、そこには青筋を浮かべて鬼のような形相で男を睨む美少女がいた。



「まず、前提からして違うのですが兄妹デートではありません」


「そっそれなら」


「残念ですが、何度そのような言葉をかけていただいたところで、私はあなたのような薄っぺらい人間に心動かされることはあり得ません」



 そこで一呼吸置いて。



「春日井君よりあなたの方が良い?ふざけるのは二週間前にいただいた軽薄な告白の セリフくらいにしてくださいね。あなたの何倍も素晴らしい男性ですし、カッコいいです。比べるのも春日井君に失礼なので、お願いですから眼前から消えてください」


「おっお前」



 何か言おうとしたところで後ろの女の子が進み出る。



「先輩、私に告白して来たのって1ヶ月前ですよね?」



 女の子は駆け出してしまう。



「おっおい、待てって!くっ覚えてろよ!」


「もう忘れました」



 これまた安い悪役のようなセリフを残して去っていく男に、桜は冷たく言い放つ。


 先ほどまでの怒りの表情は消えて、顔には爽快感が浮かんでいる。



「お前、わざとだろ」


「あれ?バレちゃいました?あの人あんまり良い噂を聞かないので、あの女の子も救われましたね」



 いやいや、本当に男には容赦ないな。



「でもさ、女の子はあいつが良いと思ってたんだろ?知らなくて良いこともあったんじゃないか?」


「……颯太くんはバレなかったら浮気しても良いって思う人なんでしょうか」


「いや待て!そういうことは言ってない!そもそも俺は浮気なんて絶対にしない!」



 なんで俺はこんなに必死になって弁解しているんだろう?決して先ほどの桜の顔が怖くてビビっているわけでは無い。



「冗談です、私は颯太くんがそういう人じゃないってことはわかってますよ。でも、確かにやり過ぎました、ごめんなさい。颯太くんを馬鹿にされたのが、どうしても許せなくて」



 素直に頭を下げる桜。


 その頭を撫でると、気持ち良さそうに声を上げる。



「んんっ颯太くん恥ずかしいです」


「ああ、悪かった」



 手を離すと名残惜しそうに視線を向けてくる。



「こういうこと、他の女の子にはしないでくださいね」



 上目遣いで見つめてくる目は、さながら飼い主におねだりをする子犬のようだ。


 こんなところで俺の理性を試してくるなよ。



「よーし!それで、どの機種にする?」


「流さないでください!まあ良いです。機種はどれでも良いのですが、ここからが本番ですからね」



 そう言って視線を向けた先には「コスプレコーナー」の文字。



「ここは衣装のレンタルができるようで、今日は颯太くんの好きな衣装を教えてください!」


「なん……だと」



 これが狙いだったのか。


 桜は顔を真っ赤に染めながらコスプレ衣装が一覧になっているカタログを差し出してくる。


 差し出す手は思いっきり震えていた。



「絶対に無理してるだろ」


「無理して無いもん!良いから早く選んで!」



 あーもう何を言っても聞かないやつだ。小声で「」とか言ってる。


 とりあえず、手渡されたコスプレ雑誌に目を通す。


 これは思っていたよりも際どい。


 まず目が向いたのはスクール水着。こんなのプリクラで着る猛者がいるのか!?


 これだけはダメだ。俺の理性が崩壊するので、即座に目を離す。


 次のページにはチャイナドレス、ミニスカポリス、ナース服など、定番の物が数多く揃っていた。


 その中で、不覚にも俺の目が向いてしまったものがあった。



「……それが良いんですか」


「いやっ!ただ見てただけだから!」


「決めました!これに着替えてきます!」


「おい!ちょっと待てって!」



 制止も聞かずにコーナーの奥に消えてしまった。


 そうして待つこと数分。出てきた桜の姿に驚愕する。



「えっと、どうでしょうか」



 恥じらいながら出てきた姿に、思わず凍り付く。


 そこには、異常なまでに露出の激しい、巫女さんがいた。


 外観は巫女装束なのだが、袴の丈が異常に短い。


 ミニスカート並みの長さしか無いので、膝から太ももにかけてのラインが露わに なっている。


 そして着物の部分に関しては、谷間の上部が隠し切れず、露呈してしまっている。


 全体的な空気感としては和装なのに、神聖な雰囲気は全く感じさせない。ただただエロい。



「ごめんなさい、私もこんなに短いと思わなくて、汚いものを見せてしまって……」


「いや、似合ってる。似合い過ぎて、驚いていたところ。ところで、これで本当に撮るつもり?」


「ううう、頑張ります」


「いや、無理しないで良いって。それよりも目のやり場に困るので、お願いだから着替えて欲しい」



 そう言って胸元に目が行ってしまうのはしょうがないだろ。


 男だったら絶対に見る。


 てか、やっぱり桜って大きいよな。



「何考えてるんですか!」


「何も考えてません!」


「ドキドキしましたか?」


「はい」


「それなら良かったです♪」



 そう言って満足げに頬を染めて、更衣室に戻って行った。





 ゲームセンターで別の意味で疲弊していた俺たちは、駅前のベンチに腰掛けてい た。



「プリクラって良いですね」


「俺は別人だな」


「颯太くんは実際に見た方がカッコいいです!」



 そう言って笑顔を向けてくる姿は、本心から言っているのがわかるからこそ照れ臭い。


 千歳や樹にも聞かせてあげたい。いや、全力でからかわれるから、やめておこう。



「そんなわけ無いだろ。桜はあんまり変わらないけど」


「えー何でですか!盛れてる?というやつだと思うんですけど!」


「いや、美人って加工をしてもあんまり変わらないなーって」


「……颯太くんはズルいです。やっぱり慣れてます。不潔です」



 不潔って言われてもなあ。

 

 少し拗ねている桜の手を、そっと握る。



「そういうところがズルいって言ってるのに」



 去年家族になった時、こうして手を繋いで歩いていたら仲の良い兄妹に見えたのかな。


 いや、高校生の兄妹は手を繋いで歩かないか。


 繋いだ手を見て苦笑する。



「あの、颯太くん」


「私だけ……ですよね?こうやって手を繋ぐのは」


「えっと、突然どうしたんだ?」


「いえ、何でも無いです!何だか疲れちゃいましたね、家に帰ってご飯にしますか」


「あっああ。そうだな」



 俺の手を引いて歩く桜の顔は見えない。


 いつも素直にぶつかって来てくれる桜の気持ちが、今日は読み取ることができなかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


巫女さんチョイスは好みが入ってしまいました……笑


よろしければブックマークと★から★★★★★で率直な評価をいただけると、今後の励みになるので嬉しいです!!

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[良い点] とても良い。かわいい [気になる点] 2話ぐらい前に最後のデートって言ってたのがすごく気になる
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