第二十二話 元義妹と歩む日々
「あーモヤモヤするううう」
私はベッドの上で足をばたつかせる。
雨宮さんと何やらされる見たいですけど、何も言ってくれないんですもん。
「密会ですか!幼馴染と密会ですか!」
わかってます。ええ、嫉妬してますとも。
先日の颯太くんはお母さんに堂々と話をしてくれてとっても格好良かったのに、早速雨宮さんとお家デートですか!
あれ?なんかイチャイチャの香りがする。メッセージを送っておきましょう。
どうしよう、あーんしてもらってたり、あの大きなおっぱいで迫られたら颯太くんが危ない!
でもわかっています。私は彼女じゃないんだから、嫉妬する権利もありません。
「颯太くん、私のことをどう思ってるのかな」
少しは気持ちを向けてくれているかと思ったのに、私の好きとはやっぱり違うのでしょうか。
「はあ、彼女になれたらこんな気持ちにならないのかな」
その時スマートフォンの通知が鳴る。画面を見ると颯太くんから一文。
『明日のご飯は俺が作るから、楽しみにしていて』
あっやばい、泣きそう。
もう私のご飯食べてくれないの?雨宮さんのご飯がそんなに美味しかったのかな。
ダメだ!ネガティブなことしか思いつかないのは私の悪い癖です!
『楽しみにしています』
そう返して静かにスマートフォンを置く。
ネガティブな考えを頭から追いやって、それでも悶々とした思いのまま眠りについた。
翌日の放課後は、明日からゴールデンウィークということもあり連休前の浮足立った空気が
広がっていた。
「古賀さんまた学校でねー!」
「うん、またね」
数人の級友が私に声をかけてくれる中で、一人下校の準備を進める。
いつもなら夕飯の食材を買いに行って颯太くんの家に向かうはずが、今日はそれが無いので何だか変な感じです。
足取りも重く、教室のドアに向かう。
「……桜」
「えっ!?」
教室から出ようとした時、なんとそこには颯太くんが立っていました。
「どうしたんですか!?」
「いや、一緒に帰ろうと思って。何か用事があったか?」
「無いです!喜んで!」
そう言って颯太くんの腕に飛びつく。
昨日から颯太くんのことばかり考えていたので、体が勝手に動いてしまいました。
「おっおい!」
「恥ずかしいんですか?」
「……学校では勘弁してください」
「むーしょうがないですね」
拗ねたフリをしたけど、颯太くんから学校で話しかけられたことが嬉しくて大胆なことをしてしまいました。
あれ?周りからの視線を感じる。ううう恥ずかしい。
「行こうか」
「はい!」
颯太くんの横に並んで歩き出す。
放課後に並んで歩くのは初めてのことだったので、嬉しさと恥ずかしさが入り混じって言葉が出てきません。
でも、そんな無言の時間も心地良くて、これからもずっと隣で歩けたらなんて考えが浮かぶのは仕方のないことですよね。
家に到着してから桜は常にそわそわしていた。
事あるごとに「手伝います!」と言って立ち上がるが、その度にソファーに押し込んだ。
昨日の千歳との練習を思い出して一つ一つの工程を丁寧にこなしていく。
料理が完成に近づくと共に甘味とだしの混ざりあった香りが室内に広がる。
「良い匂い」
「もうすぐ出来上がるからな」
「でも颯太くんって実は料理できたんですか?」
「いや、全く。だから昨日千歳に教えてもらったんだよね」
後ろで「どうしましょう勘違いしちゃいました」なんて声が聞こえるから、また要らぬ妄想を広げていたのだろう。
「ご飯できたぞ」
「ありがとうございます!」
食卓に並んだ親子丼を見ると桜は目を丸くする。
見た目は悪くないはずだ。
「だからこの前、私の好きなものを聞いたんですね」
「ああ、どうせなら桜の好きなものを作りたくてな」
「ありがとうございます、いただきます」
桜が一口目を口に運ぶ。
人にご飯を食べてもらう感覚というものを味わったことが無かったのだが、これは緊張するな。
桜はいつもこんな思いで作ってくれていたのかな。なんて考えているとより一層の感謝が込み上げてくる。
「……おいしい」
「良かった」
「本当に美味しいです!でも何で突然料理を作ってくれたんですか?」
桜は首を傾げる。
「この前言っただろ、これからは返していきたいって。だから桜ほど上手にはできないけど、せめて一緒に料理ができるくらいには頑張りたいなって」
「颯太くんと料理……私もしたいです」
「じゃあこれからは手伝わせてもらえるか?」
「お願いします」
一緒に台所に並ぶ姿を想像すると、笑みがこぼれた。
それは桜も同じであったんだろう、こちらに微笑みかけてくれる。
そしていつの間にか桜の器は空になっていて、また喜びが込み上げてきたのだった。
「桜ってゴールデンウィークは何か予定があるのか?」
食事が終わって二人でソファーに座ってテレビを見ていた時に、唐突に話題を振った。
「特に何も無いですけど、颯太くんは?」
「俺も真ん中の三日間、父さんとおばあちゃんの家に行くくらいかな、それ以外は少しバイトが入ってるくらい」
「じゃあ、明日はお昼も作りに来ても良いですか?」
「面倒じゃないか?」
「そんなことないです!お願いします!今日のお礼も兼ねて!」
すぐにお返しされては俺が桜に今までのことを完済できるのはいつのことになるのやら。
でも、桜と一緒に過ごすことの時間が増えるのは素直に嬉しいと思ってしまう。
「それじゃあお願いしても良いか?俺も手伝うから」
「はい!」
嬉しそうに桜が頷く。
「それとこれを渡したいと思っていたんだ」
俺はポケットに潜ませていた鍵を取り出す。
「この家の鍵。父さんには了解を得ているし、香澄さんも桜一人でいるのは心配だからって」
「これ、合鍵?」
「うん、前みたいにね」
「……嬉しいです、通い妻みたいですね」
「そっそうとは言ってない!」
「ふふふ、颯太くん顔が赤いですよ?」
ニヤリと指摘してくる。
「さっ桜も真っ赤だぞ」
俺の顔が熱を持っているのはわかっていた。
けれども桜の顔も赤く染まっていて、お互い顔を赤くしながら俯く。
「あの、もうちょっとそっちに行っても良いですか?」
「どうした?」
「えっと、学校で勢い余って抱き着いちゃったので、いまなら良いかなって」
「勢い余ってって……わかったよ」
「逃げないでくださいね」
「どこに逃げるんだよ」
苦笑交じりに伝えると、桜は肩の当たる近さまで寄ってくる。
桜の体温を肩越しに感じて、いつかまた一緒に暮らせる日が来たら今度はとても幸せな毎日になるんだろうな。
でもそんな日は二度と来ないし、時は巻き戻せない。
だからこれから続く日々を大切にしよう。
そんなことを考えながら、これから続くであろう日々に思いを巡らせた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
物語は終盤です!あと15話程で完結する予定ですので、よろしければブックマークと★から★★★★★で率直な評価をいただけると、今後の励みになるので嬉しいです!!




