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第二十話 元義兄の決意

「うふふ、それで二人はいつからこんなに仲良しさんだったのかな?」



 満面の笑みで、桜の隣に座った香澄さんが俺に熱い視線を注いでいた。


 桜は確かにこの人の子供だなーと納得する美魔女っぷりで、若々しさと可愛らしさを兼ね備えている。



「お母さん、やめて」


「えーなんでいいでしょ〜みんなでご飯食べた時とか一言も話さないんだもん、仲悪いのかなーって思ってたのに」


「そっそれは⋯⋯」


「あーんしてください。だっけ?遥斗さんに私も今度お願いしてみようかな~」



 桜の顔が真っ赤に染まる。



「いつからいたの!?」


「えー?それは秘密」



 恥ずかしさに桜は目を伏せる。


 それよりも、俺は聞きたいことがあった。



「それで?なんで離婚した二人が仲良くデートしてるんだ?」



 遥斗に向けて率直な疑問をぶつける。


 離婚するときは「二人で話し合った結果」としか聞かされていない。


 それに半年間という短い期間だったので、それ以上詮索はしなかった。



「いやーそれはな⋯⋯」


「良いから説明して欲しい」



 絶対に逃がさないという俺の視線に観念したのか、遥斗が言葉を絞り出す。



「二人とも結婚してから仕事が忙しくて、なかなか家に揃うことも無かっただろ?年頃のお前達を家に残して結婚生活を続けるのもなんだか申し訳無くてな⋯⋯」


「なんだか二人とも気まずそうだし、かわいそうかなって。だから、私達は家族という形にこだわらなくても良いかもねって遥斗さんと決めたのよ」



 遥斗の後に香澄さんも続けて説明してくれた。


 これまでは正直ドライに考えてたけど、二人の仲が良いままというのは素直に嬉しかった。


 高校生にもなると親の人生だし、こういうこともあるよなーくらいには考えられていたけど、やっぱり離婚というワードは高校生には少々重かったから。



「それなら話してくれたら良かったのに」


「いや、二人が責任を感じてしまうんじゃないかと思ってな。でも全く関係無いからな?お互いの仕事が忙しいことも、しっかりと考えて決めるべきだったんだ、本当にすまない!」



 遥斗が深く頭を下げる。



「いや良いって。俺は気にして無いからさ」



 俺は桜に同意を求めて視線を向けた。


 笑顔で「気にしないで」なんて声を二人にかけるものだと思っていた。


 でも、そこには何も言わずに涙を流す桜の姿があった。



「⋯⋯桜?」


「⋯⋯ごめんなさい、なんでだろう」



 その姿に気付いた香澄さんも慌てている。



「あのね、本当に私も何も思って無かったの。お母さんと遥斗さんが決めたことならしょうが⋯⋯ないなって」



 後半の言葉には小さく嗚咽が混じる。



「お母さん⋯⋯前にあんなことがあって、また悲しんでるんじゃないかって⋯⋯でも私、怖くて何も聞けなくて、二人のことだから⋯⋯私があんまり気にしちゃダメかなって。でも、何も言ってくれないから、寂しかったの」


「桜⋯⋯ごめんね」



 そう言って香澄さんは桜を抱きしめる。



「ううん、お母さんが幸せそうなら⋯⋯本当に良かった」



 桜はあまり気にして無いと思っていた。


 こんな思いを抱えていたなんて、一緒にいる時間は同居していた時よりも増えているはずなのに、知らなかった。


 いや、知ろうともしていなかった。


 一緒に住んでいた時だってそうだ。


 桜は何も言わずに毎日欠かさず手料理を作ってくれて、自堕落な俺に何も言わず家事も完璧にこなしてくれていた。


 そんな子に対して俺はただ甘えるばかりで、気持ちに目を向けることも無かった。


 桜からの気持ちを受けてばかりで、どれだけ自分が驕っていたかを痛感した。



「颯太、原因を作った俺が言えた話では無いことはわかっている。でも、これからちゃんと桜ちゃんに向き合えば良いんだよ」



 遥斗が気持ちを見透かしたかのように、優しく語りかけてくる。


 そして衝動的に、言葉を発していた。



「香澄さん」


「どうしたの?」



 素直な気持ちを伝えたい。



「もう、関係性としては桜とは他人になってしまったかもしれないです」


「ええ、そうね」



 微笑む香澄さんに反して、桜は悲し気な視線をこちらに向ける。



「でもこれからは俺が、桜にしっかりと返していきたいと思ってます」



 桜の顔が驚きに変わる。



「桜はしっかりしてるし優しいから、これからもお世話になってしまうかもしれません。でもそれ以上に、何年かかっても、幸せになってもらえるように努力します」



 香澄さんは微笑みを崩さずに話を聞いてくれている。



「香澄さんが家にいない時も安心してください。いつも桜が笑顔でいられるように、桜が傷つかないように、俺がこれからも傍にいるので」



 香澄さんは何も言わずに俺を見つめている。



「颯太君。私、早く孫の顔が見たいわ」


「はい、わかりました⋯⋯ってええ!?いや、そういう話では無くて」


「え~でもこういう時って、桜はお前にはやらん!って一回言っておいた方が良いのかしら?」


「だから香澄さん、何か誤解してますって!」


「あらー桜聞いた?あんなにカッコイイこと言ったのに誤魔化そうとしてるわよ?」


「⋯⋯意気地なし」



 母娘の連携に勝てる気がしないので、遥斗に助けを求めて視線を向ける。



「息子のプロポーズを目の前で聞くことになるとはなー颯太も成長したなあ」



 いや、なに浸ってるんですかお父様!?



「そして桜さん、なんで笑ってるんですか?」



 桜の涙はもう流れてはいなかった。


 代わりに笑顔を浮かべて、嬉しそうに俺を見る。



「いや、颯太くんは優しい人だなって思って⋯⋯もっと大好きになっちゃった⋯⋯かな?」


「⋯⋯桜」



 あーこれはだめだな。


 目の前の、同級生でも、同居人でも、義妹だった子でも無い、女の子としての桜に愛おしさが込み上げる。


 そしてその気持ちの正体が何なのか、わかってしまう。


 ここが家じゃなくて良かった。きっと言葉の続きを考えて、衝動的に口にしてしまいそうだから。


 ん?あれ?家じゃない?ということは。



「あのーお客様⋯⋯」



 周りを見渡すと赤面した人々が、こちらに視線を向けている。



「えーっと⋯⋯お会計お願いします」



 羞恥心に震えながら、とっさに桜の手を引いてレジに向かう。



「先に出るから!父さん、香澄さんまたね!」



 背中に刺さる好奇の視線を、何とか意識の外に追いやって、足早に店を後にした。




「⋯⋯あの」


 飛び出すように店を出て、あても無く歩いていたところで桜から声がかかる。



「どうした?」


「あの、手⋯⋯」



 手?と思って目線を下に向けると、店を出てからここまで、手を繋いだまま歩き続けていたことに気付いた。


 冷静になった瞬間、桜の小さな手の感触が伝わってくる。



「ごめん、勢いで!もう離すから」



 そう言って手を離したのだが、追いかけるようにその手をまた握られる。



「あの!今日はこのまま⋯⋯ダメですか?」


「俺は良いけど、誰かに見られるかもしれないぞ?」


「嫌ですか?」



 桜が上目遣いで、ダメですか?とお願いしてくる姿は何度も見てきたけど、やっぱり拒むことはできない。


 うーん、この子わざとやって無いよな?


 でも、頬を染めて瞳を揺らす姿は、いつも精一杯の気持ちを伝えてくれていることがわかってしまう。



「嫌じゃないよ」



 うん、嫌な訳がない。


 半年間のすれ違いが誤解だとわかって、急速に距離が縮まって、同時にもっと知りたいと思う。



「ついでにどこかで、あーんのリベンジでもするか?」


「それは今度家でしてください⋯⋯やっぱり外は恥ずかしいです」



 俺もさっきみたいな視線は浴びたくないな。


 ちょっと照れてる顔もまた見てみたいという邪な感情が湧いてきたけど、グッと堪えて言葉少なに二人で街を散策する。



「あのさ」


「どうしましたか?」


「俺、ちゃんと桜に返していくから」


「ふふっ私が好きでしていることなので、気にしなくても良いのに」


「それじゃあ俺も好きにさせてもらうよ」


「それは止める権利はありませんね」



 そう言って二人で顔を見合わせて微笑む。


 一方が甘える関係じゃなく、二人で共に並び歩く関係になりたい。


 決意と共に握る手に力を込める。


 そして、最後まで繋いだ手を離すことは無かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

これで第二章は終わりです。

明日から第三章がスタートします!


よろしければブックマークと★から★★★★★で率直な評価をいただけると、今後の励みになるのでとても嬉しいです!!




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