第十八話 初デートの始まりはストーキングから
今日は土曜日ということもあり、隣駅は買い物客で賑わっていた。
待ち合わせ場所はここから歩いて5分程なので、余裕で間に合いそうだ。
一緒に歩いてるやつダサくない?と言われないように身だしなみにも気を付けて、髪も入念にセットした。
そのくらいのことで、釣り合いが取れるわけでは無いけれど。
さて、そんなことよりも気になっていることがある。
「なんであの子ずっといるの?」
思わず声に出てしまったが、家を出た瞬間から、桜が隠れながら付いてきているのである。
もちろん気付かないフリはしている。
多分本人は至って真面目に尾行しているだろうし。
桜の扱いにも慣れたものだなと、呆れ気味に苦笑している内に目的地に到着していた。
待ち合わせまでは少し余裕がある。
バレないように桜がいる方向を見ると、道路沿いに設置されたベンチの裏に中腰になって隠れている。
むしろ自然にバレた方がいいんじゃないか?とも思ったので、あからさまに体を向けると、焦ったように背を向けてしまった。
このままじゃ明らかに不審者なので、こちらから声をかけてあげよう。
完全に出てくるタイミングを失ってしまっているみたいだしな。
「⋯⋯なにしてるんだ?」
同居して義妹してる時はしっかり者イメージだったのに、最近はポンコツが露呈し過ぎて可愛い。いや辛い。
「あっえっと⋯⋯遅れてごめんなさい」
「俺もいま着いたところだよ、ちなみに桜もいま着いたよね?」
定番のやり取りを交わしてみるけど、それで切り抜けるにはこの状況は無理がある。
当人は「桜って呼ばれた、どうしよう」とか言ってるけど、そこじゃない。
「声かけてくれたらよかったのに」
「⋯⋯気付いてたんですか」
「もちろん。まさか家の前で張ってたの?」
「ちっ違います!待ち合わせにちょーっとだけ早く家を出てしまって、何しようかなーと思っていたら颯太くんの家の前を通りかかったので、私服ってどんな感じなのかなーって気になって⋯⋯そしたら、先回りしようとして失敗しました」
何分くらい前からいたかは聞かないようにしよう。
この子、平然と3時間前とか言いそう。
「⋯⋯颯太くんとデートだと思ったら舞い上がっちゃいました」
追い打ちやめて!ちょっと怖いと思ってたのに、上目遣いでそんな可愛いセリフを言うのは反則だ。
いや、待て騙されるな。やっぱり怖いものは怖い。
ジト目を向けるもキョトンとした顔でこちらを見てくる。
あれ?尾行されてるインパクトが強すぎて意識から漏れていたけど、私服の桜をまじまじと見て言葉を失った。
桜は最近は暖かくなってきたからか、真っ白のワンピースに薄黄色のカーディガンを1枚だけ羽織っている。
流れるような黒髪と白い肌に清楚感の強い色合いはマッチしていた。
いつもの学校で見せるクールな印象よりも年相応の美少女として透明感が引き立って、周囲の目を釘付けにしている。
『古賀さんはちょっとエッチな格好をしてくる』
そこで樹の言葉が頭をよぎったのは、ワンピースの胸元である。
適度に開いた隙間から、身長差もあってその先の谷間の上部が僅かに見えていた。
視線が泳いでいることが自分でもわかる。
昨日も思ったが、着痩せするタイプなのかしっかりと出るところは出ているんだよな。
「⋯⋯どこ見てるんですか?」
気付くと桜が目を細めてこちらを見ていた。
そんなに凝視してないと思うし、むしろ頑張って目をそらしていたと思うんだけど、本人にはわかるものらしい。
「やっぱり颯太くんもエッチなんですね」
「なっ何のこと?」
「見てたのはバレバレなんですから!」
「えっと、ごめんなさい」
「⋯⋯不思議です。やっぱり颯太くんにそういう目で見られても嫌な気はしないんですよね。他の男性は例外無く極めて不快ですけど」
そう言って冷めた顔を見せると少し安心する。
学校で見かけるクールな一面も見せてくれないと、俺といる時の桜は無邪気で無防備で、とにかく心臓に悪い。
「でも⋯⋯カーディガンのボタン閉じた方がいいんじゃないか?服、似合ってるけど他の人の目もあるし」
先ほどの桜の言葉に照れながら伝えると、目を輝かせてこちらを見てくる。
「もしかして嫉妬してます?独占欲ですか?」
ニヤリと口角を上げて聞いてくる。
本当にコロコロと表情が変わるな。
普段学校では見せない素の桜を、俺だけが知っているという優越感が込み上げてくる。
「⋯⋯そろそろ行かないと、店混むぞ」
「あー待ってくださいよ!」
そう言って先に歩き出す。
火照る顔を隠すように、足早に歩を進めた。
颯太くんに見つかっちゃいました。
完璧に気配を消したつもりが悔しいです!
そしてもう一つ悔しいことがあります。
桐野江君の掌の上で踊らされてる気がすることです。うー悔しい。
ネットで買って意外と露出が多くて着れなかったワンピースが、こんな形で役立ってしまうとは思いませんでした。
でも、颯太くんが私の服装を見て顔を赤らめてしまった時はちょっと照れましたが、女の子として見てくれて良い気分です。
「調理器具って何買うんだ?」
「えっと⋯⋯まな板とかですか?」
「なんで疑問形なんだよ」
苦笑しながら返してくる颯太くん。
まな板って何ですか私!今までどうやって料理してたんですか!自分で突っ込んでて悲しくなってきました。
「圧力鍋無いって言ってたし、見に行くか?」
「圧力鍋?圧力鍋なら家にありますよ?」
「ん?前に角煮作ってくれた時に無いって言っていたような」
「はっ!?間違えました!あの後買いに行ったんです!」
凡ミスです。圧力鍋が無いから(嘘)家でご飯作らせてください作戦がバレてしまうところでした。
慎重に動かなければ、颯太くんの前では気が抜けてしまいます。
学校では絶対にこんな隙は見せないんですけど。
ふう、気を取り直しましょう。
「そうだ、父さんの食器を使い続けてもらうわけにもいかないし、茶碗とかも見るか?」
「えっ⋯⋯いいんですか?」
何が?みたいな顔でこちらを見ている颯太くんは、意味に気付いたみたいで照れているのが見て取れます。
気を取り直したいのに、また心が乱されてしまいました。
「いっいや、古賀が面倒で無ければお互いに一人でご飯を食べるのも味気ないし⋯⋯人と食べる夕食って良いしな」
「私も颯太くんが良ければ、今後も一緒にいたいです。これからもずっと⋯⋯ずっと!あと、桜って呼んでって言ったじゃないですか」
待って私、一緒にいたいってなに?テンパりすぎです、そこは一緒に食べたいでしょ!
はあ、落ち着きましょう。
冷静にならないと、また告白めいたことを言ってしまいそうな自分が怖い。
でも嬉しくて足取りが軽くなってしまいます。
「ふふふ⋯⋯私専用の食器」
「どうした?」
「なっ何でもありません!」
ううう、遅すぎる初恋をセーブできません。
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