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第十四話 幼馴染との恋愛相談

 夕食を共にすることになってから、古賀の様々な一面を知ることとなった。


 実は少し天然なこと。


 実はよく笑うこと。


 実はクールというわけでは無くて、ただの人見知りだということ。


 ストーカーだと思っていたのは、極端に男性に免疫が無いからということ。


 新たな一面を知る度に、性格の悪い元義妹という印象は、好意的なものにすり替わっていった。


 とは言え、いまだにストーカー気質は抜けないみたいで、下校の時は遠くから付いてくるので、マンション前で合流する形を取っている。


 週末も作ってくれると申し出てくれたのだけど、バイトが入っていることが多いし、さすがに申し訳ないので、今は遠慮している。


 そんな生活が2週間程続いたある日の放課後。


「そうちゃん!」


 千歳が頬を膨らませて後ろから抱き着いてきた。


『また春日井かよ。爆発、いや分子レベルまで分解しろ』


『よし、誰があいつを処分する?』


 男子の視線で死にそうなので、お願いだから教室で激しいスキンシップはやめてくれます?



「最近そそくさと一人で帰っちゃうしさ、全然かまってくれないから私拗ねてるんですけど!」



 抱き着く腕に力が入り、首が絞まる。苦しさと頭部に感じる柔らかな感触に、千歳も成長したなあ。なんて感動していると視界が霞んできた。



「ちょっと!?颯太の目が虚ろになってるよ!?」



 どうやら意識が飛びかけていたらしい。樹が慌てて止めに入ってくれた。



「それでそうちゃん、どう落とし前つけてくれるの?」


「お前の前世はイカついオッサンか!まあ今日はバイトも無いし、一緒に帰るか」


「やったー!何ならうちでご飯食べていきなよ!」


「うーん⋯⋯わかったよ」



 ここで断るとまたチョークスリーパーをされかねないので、一瞬迷って了承した。



「ちょっと待っててな、用事を済ましてくるから」



 そう言って教室の外でスマートフォンでメッセージを送る。



『急で申し訳無いんだけど、今日は千歳の家で夕食を一緒に食べることになって、また明日でも大丈夫かな?』



 すぐに既読が付く。



『そうですか。楽しんでください』



 なんだか怒りの波動を感じる。



『ごめん、もしかして具材買っちゃった?』



 今日は食材がもう無いから、先に買い物に行ってから来るって言ってたな。


 きっと買い物が無駄になって怒ってるのか、悪いことをしたな。



『いいえ、ちょうどスーパーに着いたところで、まだ食材は買っていないのでお気になさらず。それでは』



 違うようだ。


 でもなんだか先ほどよりも冷たさを感じる文面だ。うん、一旦考えることをやめよう。




「ちとせーお待たせ」




 呼びかけると子犬のように寄ってきて、定位置とも言うかのごとく、ピッタリと横に張り付いてくる。



「歩きにくいんだけど」


「いいでしょー!あっ久々に手でも繋ぐ?」



 こういうことをするから、俺には浮ついた話が出ないのかと悲しくなる。


 まあ千歳がいなくても、きっとモテてはいないけど。



「今日はおばさんたちは?」


「うーん仕事遅くなるって言ってたから、今日はいないと思うよ」


「はあ、それなら良かった」



 普通の男子高校生なら、親がいないと聞いたら緊張感が走るのかとは思うのだが、逆に安堵した。


 千歳の両親は事あるごとに「卒業と同時に入籍したら?」そんな冗談をかましてイジリ倒してくるんだよな。



「パパとママはそうちゃんのこと大好きだもんねー」


「まあ、ありがたいんだけどな」



 そうして話していると、突如悪い笑みを浮かべた千歳がこちらを覗いてくる。



「それで、今日は古賀ちゃんとのことしっかり聞かせてもらうよ?」



 え?


 しまった!千歳の狙いはそこだったか。



「あっ今日用事あったの忘れてた」


「逃がすわけないよね?」



 逃がすまいと小さな体で道を塞ぐ、小柄な幼馴染。


 ファイティングポーズを取って「シュッシュッ」とこちらに小さな手でパンチを繰り出してくる。



「はあ、わかったけど他の人に言うなよ」


「もちろん♪」



 千歳の「もちろん」は信用できないが、ゴシップ好きの千歳からこれ以上逃げるのは難しいので、諦めた。




「テキトーに座っててー。すぐに作るからね!」


 パット見、家事スキルが皆無に見える千歳だが意外と、本当に意外と家庭的で料理も上手だ。



「それで?なんでいまさら古賀ちゃんと仲良くなったの?」


「いやー話せば長くなるんだけどな⋯⋯」



 ここ最近の一連の出来事を思い返して、恥ずかしい部分はできる限りオブラートに包んで伝えた。



「待って、面白過ぎない?その展開」



 結果、目を輝かせる幼馴染。



「それってまとめると。気になる男の子が突然義兄になっちゃった!でも恥ずかしくて目も合わせられないから冷たい態度を取っちゃう⋯⋯何の進展も無いまま別々に暮らすようになっちゃったけど、私、ウジウジするのやめる!古賀桜!リミッター解除!ってことで合ってる?」



 ナレーション風につらつらと身振り手振りを交えて伝えてくる幼馴染。



「そう言われると恥ずかしいからやめろ。俺の思い上がりかもしれないから」


「えっ今の状況でその謙虚さは、さすがに鈍感通り越してただの馬鹿だからね?」



 いつも優しい幼馴染がキツい。



「⋯⋯すごいなあ、古賀ちゃんは。それでそうちゃんはどうしたいの?そんなに好意を向けられてさ」


「いやいや、突然変わりすぎて色々と頭が追い付いて無いんだよ」



 正直ここまでストレートに好意を向けられると、どうしても気にはなってしまう。


 ストーカー気質な部分以外は特に欠点も見当たらない。


「もったいないなー。まず、そうちゃんの今後の人生で、あんな美少女に好かれる可能性はほぼゼロだからね?わかってる?」



 幼馴染だよな?ちょっと当たり強くない?


「うーん恋愛ってよくわからないんだよ。お前が小学校から周りをうろつくせいで、浮ついた話も無かったしな!」


「えへへ、こんなに可愛い幼馴染がいて嬉しいかい?」



 いつの間にか料理の手を止めて、後ろから抱き着いてくる。



「こういうことするから誰も寄り付かないんだろうが!!!」



 振りほどこうと暴れるも、吸い付いて離れない。



「古賀さんのことが好きかわからないんなら、どうする?本当に私と結婚しちゃう?」



 吐息が耳にかかってむずがゆい。



「アホか。10年以上の付き合いで、いまさらどうこうなるわけ無いだろうが」



「⋯⋯あはっ⋯⋯同意だね」



 千歳は俯きながら、平坦なトーンで返してくる。


 そして、そそくさとキッチンに戻って行った。



「でもさ、私にいまさらドキッとしないのに、半年同居した古賀ちゃんには、いまさらドキッとしてるんでしょ?」


「ぐっ」


「素直になれよ!少年!」



 千歳のせいで、もっとモヤモヤした。



読んでいただきありがとうございます!

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