あとがきと参考書籍について
遠く、人だかりの向こう。
頭一つ分だけ突き出た腕は天に向かって高らかにのびていた。
指から手の甲、手首、そして肘にかけて見事な紅い刺青が入れられており、二の腕までたくし上げられた純白の裾と合わさって紅白のなんと艶やかなことか。
しゃりん、と神聖な音がした。
手首がくるりと翻って、手のひらが地を睥睨する。かんざしを解いた女郎の、やや紅潮した頬にかかった色気のある黒髪を思わせるような脱力しきった五指は、ゆらりゆらりと宙を踊って。
勢いよくひるがえった。
観客の身体に隠れて見えていなかった、その下ろしていた腕が、どこまでも飛んでいきそうなほどに跳ね上げられた手を追いかけようとするさまは、魔性の女のあとを必死になって追いすがろうとする男の情念のようなものが宿っていて────次の瞬間、ぼくは発火した。
火が熾る音がして、絶叫がほとばしって、群衆が一斉に退いた。
「ぁ……」
舞台の上には、立派な神木を生やした龍神の美姫が立っていた。
彼女は足首につけた鈴をちりんちりん、と鳴らしながらこちらへ歩み寄ってくると、フッと笑ってギュッとぼくを抱きしめた。すると燃え盛っていた身体の火がどんどん治まっていき、奇跡的に一命をとりとめたのが昨日の────あの祭りの顛末である。
《幻想蒸奇譚シャーロック-看破する名探偵と火防人の龍巫女-中国篇(仮)》
・・・
どうも、ジルクライハートです。
あとがきと題されているのに急に謎次回予告もどきを始めるのは少し楽しかったですが、プロットもネタ集め(という名の舞台となる土地の風土本あさり)もはかどっていないので、現状はどうなるかまったくの未定です。これ以外にも千夜一夜物語を題材にしたアラビアンナイト篇やら永久凍土を切り拓いて豊穣の土地へのあこがれを抱くロシア篇、鹿鳴館の時代に絡繰り技師が蒸気機関で人造人間を作ろうとするヒノモト篇なども想定していますが、どれも取材不足で構想段階で止まっています。ほんとうに、もうしわけない(メタルマン風味)。
ただ今回の完結で反響があればこの世界観で、というよりは成長したあの二人でこの教養系というか蘊蓄系というか、とにかく拙作の続きを書いてみたいとは思っています。まぁ、なかなか趣味で書き続けるには手間のかかる構造となっているので見切り発車しにくいのが、ね。この国への理解を深めるならこういう本がおすすめですよ、などあればとても嬉しいです。なにぶんひとりだと良書かどうか判断する以前にそういう本が、そもそも日本語で存在しているのかどうかすら分からないので。
と、まぁ、作者の近況はさておきシャーロックと名がついているのに結局出てくるのはホームズもどきの女の子という異色作はいかがだったでしょうか。ミステリというかサスペンスというかこういう形式ははじめてだったので色々と新鮮でなかなか面白かったです。様々な人の考えを学ぶことの楽しさとは、学んだことをどう消化していくべきかを考えるよい機会にもなりました。おかげで堅苦しい物語になってしまいましたが、知識欲知的好奇心は新しい小説を求めるにあたって欠かせない要素だとも思っているので(新しい小説を読んで、新しい考えや価値観に触れるのが好き)変に妥協はせず一区切りをつけられてよかったです。
参考書籍といたしましてはコナン・ドイルの【シャーロック・ホームズシリーズ】とその他、中国の【天工開物】と【塩鉄論】、戦争心理の参考に【人殺しの心理学】と【体癖論】あたりでしょうか。メモをさかのぼっていけばまだあるでしょうが覚えている限りだとこれくらいです。この手間が好事家の皆さんに好意的に受け取ってもらえていたとしたら幸いです。
それでは。
感想や評価などよろしければお願いいたします。
では、また。




