王子、挫折する (王子サイド)
「じゃあ、いってきま〜す」
パーヴァートはうれしそうな顔をしながらエリーナに向かって手を振り、アルシュロッホ城をあとにする。
エリーナはパーヴァートの姿が見えなくなるまで笑顔で見送っている。
(ナンパ……女湯……ナンパ……女湯ナンパ女湯ナンパ女湯ナンパ……ぐへへへへっ、たまりませんなぁ)
パーヴァートは町に着いたらすぐに女の子をナンパしようと考える。
(そういえばこの世界に初めて来たときも、エリーに話しかけたらエリーはメロメロだったな……)
パーヴァートは、この世界に転生して初めてエリーナと話したときのことを思い出した。
◇ ◆ ◇ ◆
――四ヶ月前、エルフの里。
「ふ〜ん、エリーナって名前なのかい。とっても、かわいい名前だね……おっと、その綺麗な白い頰に血がついてしまっている。君のその綺麗な肌がもう二度と汚れぬよう、俺が君を守るよ……」
(ふっ、決まった……)
◇ ◆ ◇ ◆
(あのときからエリーは俺にメロメロになって、俺に仕えるって言い出したんだよなぁ)
パーヴァートがニヤニヤと妄想しながら10分も歩くと、城下町が見えてきた。
(なかなか栄えている町だな……異世界らしく中世ヨーロッパみたいな感じか。これじゃあ、アダルトショップはないなぁ……)
パーヴァートがキョロキョロと町を見渡していると、町の女の子たちがパーヴァートを見つけて集まってきた。
「まぁ、パーヴァート様! お怪我をなさったと聞いて、とても心配しておりました」
「パーヴァート様! ご無事で何よりです」
「キャ〜、パーヴァート様〜!!」
あっという間に大勢の女の子たちに囲まれたパーヴァートはニヤニヤが止まらない。
(モ……モテてる!? この俺がっ!? ……30歳で童貞だったら魔法使いになれるとインターネットで見たのに魔法使いになれなかった。40歳で童貞だったら妖精になれるとインターネットで見たのに妖精になれなかった……もう何もかもあきらめていた人生が! 今ここでっ!!)
パーヴァートは爽やかな笑顔で女の子たちに話しかけようとする。
「やぁ、俺とセッ……………………!? ……………………ッ!? ……………………!?」
(なんだ!? 言葉が出てこない!? 話せない!?)
パーヴァートは何かを話そうとするのだが、なぜか言葉を発することができない。
パーヴァートは冷や汗をかきながら、転生前の現実世界を思い出す。
(そういえば俺、女の子とマトモに話したことなかった! 最後にママ以外で女の子とちゃんと話したのって小学校の先生くらいだ……エリーにはちゃんと話せるのに……ダメだ! めっちゃ緊張してきた……)
パーヴァートは涙目になりながら女の子たちから逃げ出し、アルシュロッホ城へと走って帰る。
(帰ったらエリーに慰めてもらおう。膝枕してもらおう……)
アルシュロッホ城に着くと、城門でエリーナが待っていた。
「パーヴ王子、お帰りなさいませ」
「ブヒぃ〜、エリー! 俺を慰めてくれ! 膝枕しながらパンツの匂いを嗅がせてくれ!」
「なんでやねん!!」
エリーナが現実世界の言葉〈カンサイベン〉で突っ込んだことにすら気づかず、パーヴァートは自分の部屋へと帰っていくのであった。